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【識者の眼】「客観的指標による指導で医療の効率化を─スポーツ中の飲水禁から感じられること」杉村和朗

No.5153 (2023年01月28日発行) P.65

杉村和朗 (兵庫県病院事業管理者)

登録日: 2023-01-16

最終更新日: 2023-01-16

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私は1977年に大学を卒業し、放射線医学を専攻しました。卒業した当時はCTもMRIもなく、画像診断の黎明期でした。幾つかの病院で勤務した後、島根医科大学、神戸大学で40年間教育、研究、診療、管理運営に携わった後、昨年より兵庫県病院事業管理者として県立病院の管理・運営に当たっています。今回から1年間執筆させて頂きますので、お付き合いをお願い致します。

本連載の執筆依頼を受けた頃、サッカーワールドカップで日本が決勝トーナメントに進み、日本中が大変盛り上がっていました。学生時代はラグビー部に所属し、西医体では優勝した経験もあったので、2019年のラグビーワールドカップの盛り上がりを懐かしく感じたところです。最近のラグビーの試合では、定期的にウォーターブレイクが設定されています。季節によってインターバルが決まっており、科学的見地から設定されているようです。若い方々には信じられない様な話ですが、我々の学生時代には、スポーツ中の飲水が禁止されていました。水を飲むとパフォーマンスが落ちるし、健康にも良くないという先輩からの言い伝えによるものだったと思います。試合や練習中に熱中症になる友人が何人もいました。なぜか科学的見地に基づいて検討せず、運動中の禁飲水は長期間スポーツ界では常識だったようです。

現代の医療現場でも、様々な伝承で医療行為が行われているのを目にします。これは臨床医学が指導医によって若手を教育していくというシステムに基づくところが多いからでしょう。長年の経験によって患者にとって良いと思われる手技や治療法が、後輩達に連綿と受け継がれていきます。同じ手術でも、大学によって準備段階も、手技も異なることを経験します。大学病院にいる頃、様々な効率化のために標準化を目指しました。しかし、これらのこだわりによる医療の質の差をエビデンスとして出すことは難しく、多くの場合このやり方が優れているという意見に押し切られてきました。

最近は手術にもロボットが導入され、拡大された明瞭な画像を共有できるなど、客観的指導ができるようになってきました。客観性は増したといえども、知識や経験に基づく手技、対応については良き先輩の指導に負うところは今も変わっていません。経験が重視される臨床医学においても、指導する側には、主観的な指導に加えて客観的な指標で説明できるようにして、医療の効率化に寄与して頂きたいと望んでいます。

杉村和朗(兵庫県病院事業管理者)[臨床医学][医療の標準化]

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