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【識者の眼】「気管支喘息増悪の頻度と地域差」横山彰仁

No.5143 (2022年11月19日発行) P.61

横山彰仁 (高知大学呼吸器・アレルギー内科学教授)

登録日: 2022-11-09

最終更新日: 2022-11-09

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以前、喘息による死亡は年間7000人を超えていたが、近年は約8割減となり喘息は最も治療が成功した疾患と言われている。なぜ減少したかと言えば、吸入ステロイド薬(ICS)の普及によるところが大きい。今日、ICSは喘息治療の根幹であることに疑いはないが、1990年前後から比較的若い医師により積極的に使用されるようになり、世代間の認識差が顕著だった時期もある。もちろん、かつて当直医を悩ませていた喘息発作(増悪)もICSにより激減したのはご承知のとおりである。

喘息死数は2015年くらいから1500人程度で頭打ちになっていたが、2020年には20%減少、2021年はさらに10%減少し1037人となった。また、筆者らの調査でも増悪入院も半減している。これらは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する防御策、マスクや三密の回避などの行動変容がもたらした効果と考えられ、喘息という病気が感染や環境に影響される面が大きいことを再認識させるものであった。

さて最近、筆者らはカルテ情報のデータベースを用いて、都道府県別に全身性ステロイド投与を伴う喘息増悪の頻度を検討・報告した。本検討では対象に高齢者はあまり含まれておらず、高齢化の程度により大きく左右される従来の都道府県別喘息死亡者数とは異なる。結果は、ICSを用いて治療されている(年に4回以上処方)患者を対象とすると、増悪回数の全国平均は100人年あたり40であった。都道府県による差異が顕著で、最多と最少(それぞれ100、15/100人年)の差は7倍に達した。抗喘息薬の使用頻度も地域によって大きな差があったが、増悪地域差とは関連なく、他にも種々の検討を行っても、差異を説明する因子は明らかでない。

この結果はICSで喘息増悪は減ったとはいえ、いまだ多くの患者が全身性ステロイド投与を伴う増悪を起こしていることを示している。増悪でステロイドに曝露されると、蓄積量に比例して副作用も懸念されるため、できるだけ減少させるべきである。喘息治療を強化して、日々のコントロールをよくすることが重要であり、また、患者のアドヒアランスや吸入手技の確認も欠かせない要素である。特に前者は大きな問題であり、患者自身が「この程度でよい」と考えるレベルがあるとすれば、この閾値を下げる意識づけも重要である。

先の増悪データはCOVID-19以前のものである。しかし、地域差の原因は不明であり、ポストコロナを見据えて、地域別に対策を考える必要があると思われる。今後は日本呼吸器学会が主体となって、「喘息増悪ゼロ作戦」の展開が予定されている。

横山彰仁(高知大学呼吸器・アレルギー内科学教授)[喘息増悪ゼロ作戦]

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