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【識者の眼】「同時流行に備えコロナはかかりつけ医で対応を」小倉和也

No.5133 (2022年09月10日発行) P.56

小倉和也 (NPO地域共生を支える医療・介護・市民全国ネットワーク共同代表、医療法人はちのへファミリークリニック理事長)

登録日: 2022-09-02

最終更新日: 2022-09-02

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オミクロン株流行下のイスラエルで、ニルマトレルビル/リトナビル(パキロビッドパック)の内服が65歳以上の入院、死亡リスクをそれぞれ73%および79%低下させたことが示された1)。これを受け、今後以下の3つが重要と考える。

一つは、ワクチン接種のさらなる推進である。4回目接種や二価ワクチン接種の推進はもちろん、未接種者への啓発が重要だ。上記の研究では、40歳から65歳未満では未感染かつ未接種者でのみ有効であることも示された。このことは未接種者を減らすことが医療逼迫防止に有効であることを示唆しており、啓発およびmRNAワクチン忌避の場合は組み替えウイルスワクチン接種の勧奨が重要と思われる。

二つ目は、施設や高齢者住宅でのN95マスクと抗原検査キットの活用である。私が参加する日本在宅医療連合学会新型コロナウイルス対策ワーキンググループでは、空気感染対策のため、換気や空気清浄機の活用とあわせ陽性者対応時のN95マスクの活用を推奨してきた2)。事前にフィットテストなども行い十分な数を用意した上で、陽性者が出ても職員や他の入居者に広げないことが肝要だ。そのためには抗原検査の正しい活用が有効だが、以前の記事3)で述べたように、陰性でも繰り返しの検査が必要であることは、米国食品医薬品局(FDA)も推奨4)しており啓発が必要である。

最後に最も重要なのが、インフルエンザに対応するすべての医療機関でコロナの検査から ニルマトレルビル/リトナビルの処方まで行えるようにすることである。南半球の現状をみると、今冬はインフルエンザとの同時流行も想定されるが、症状から区別できずインフルエンザのみ対応することは不可能である。若年で基礎疾患のない場合はなるべく抗原検査と自主療養がスムーズにできるようにする。一方、重症化リスクの高い高齢者や基礎疾患を持つ患者は、その情報を持つかかりつけ医がいるはずなので、基本的にその医師が対応し、腎機能や相互作用などを考慮した上で、ニルマトレルビル/リトナビルまたはモルヌピラビル(ラゲブリオ)を迅速に処方できるようにする。これにより、重症患者の増加で地域の基幹病院がコロナ対応や通常医療の提供ができなくなることを防ぐことが可能となり、初めてインフルエンザ並みの扱いとなる。そのためには、処方手順の簡素化や医師会による研修やサポートも重要であろう。

3度目の冬を今度こそしっかり乗り切り、明るい春を迎えたい。

【文献】

1)Ronen A, et al:N Engl J Med. 2022;387:790-8.

  https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2204919

2)日本在宅医療連合学会 新型コロナウイルス感染症ワーキンググループ:在宅医療における新型コロナウイルス感染症対応Q&A(改訂第5.1版). (2022年5月18日) 

   https://www.jahcm.org/assets/images/pdf/covid19_v5.1.pdf

3)小倉和也:医事新報. 2021;5088:57.

  https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=18188

4)FDA:FDA NEWS RELEASE. 2020 Dec 15. 

   https://www.fda.gov/news-events/press-announcements/coronavirus-covid-19-update-fda-authorizes-antigen-test-first-over-counter-fully-home-diagnostic

小倉和也(NPO地域共生を支える医療・介護・市民全国ネットワーク共同代表、医療法人はちのへファミリークリニック理事長)[新型コロナウイルス感染症]

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