No.5129 (2022年08月13日発行) P.64
川﨑 翔 (よつば総合法律事務所東京事務所所長・弁護士)
登録日: 2022-07-01
最終更新日: 2022-07-01
今回はクリニックの廃業(閉院)についてお伝えしたいと思います。近年、クリニックの第三者承継(M&A)が増加しており、先日、クリニックの第三者承継に関する書籍を出版しました〔『クリニックの第三者承継実務 売り手・買い手の承継手順と法務・税務』(日本法令)〕。第三者承継が増加している背景には、高齢化の進行により、クリニック経営から「卒業」したいと考える先生方の存在があります。
第三者承継を行う場合、クリニックを譲り受けた先生が診療を続けるため、廃業に関するコストはほとんどかかりません。むしろ、譲渡の対価を得ることができますから、実質的に「廃業にかかるコスト+譲渡の対価」のメリットがあります。第三者承継そのものにある程度の手間がかかることを考えても、第三者承継のメリットは大きいと思います。
一方で、廃業の場合、意外とコストや手間がかかります。たとえば、物件の原状回復(最近は解体費用も値上がりしている状況です)や保健所・厚生局・都道府県等に対する届け出、スタッフの解雇(退職金の支払い)、医療機器等の廃棄、カルテ等の保管など、範囲は多岐にわたります。
気をつけなければいけないのは、「廃業についてアドバイスをくれる人が少ない」という点です。開業や第三者承継の場合、多数の業者や士業が関連する上、継続的な取引関係が期待できるので、アドバイスを得やすいです。もちろん、そのアドバイスが正確なのかどうかを慎重に判断する必要はありますが、開業や第三者承継全体をマネジメントする人を見つけやすく、ある程度見通しを立てることができます。
しかし、廃業の場合、個々の作業を請け負う業者や士業はいますが、廃業全体をマネジメントできる人はきわめて少ないのが現状です。そのため、全体として何が必要なのか、手続きごとに誰に依頼するのか、どのような順序で行えばいいのか、といった判断を、すべて院長が主体的に行わざるをえません。
可能であれば、行政書士や弁護士など、手続全体を理解している専門家に対応を依頼すべきでしょう(私自身も、廃業に向けたアドバイスを依頼され、スタッフの解雇を含めた対応を行ったことがあります)。確かに、廃業自体は利益を生み出すものではないので「そこに費用をかけるのは……」と思いたくなるのは仕方ない面もあります。しかし、適切な費用かどうかの判断や賠償リスクの回避など、適切なアドバイスを受けることは、結果的に不要なトラブルやストレスを避けることにつながります。
いずれにしても、院長としては「引退後のキャリアを相談できる人がいる」という状況をつくっておくことが重要でしょう。
川﨑 翔(よつば総合法律事務所東京事務所所長・弁護士)[クリニック経営と法務]