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【識者の眼】「コロナとの共生時代に改めて問われる事業所の感染拡大防止対策」北村明彦

No.5116 (2022年05月14日発行) P.56

北村明彦 (八尾市保健所健康まちづくり科学センター総長)

登録日: 2022-04-08

最終更新日: 2022-04-08

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新型コロナウイルス感染症の第6波が収束する前にリバウンドが出現してきたこの時期にこそ、経済活動の中心となる事業所の今後の感染対策が問われることは必然である。

厚生労働省は、2022年3月16日付の全国の自治体への事務連絡にて、「オミクロン株の特徴を踏まえた感染者の発生場所毎の濃厚接触者の特定・行動制限及び積極的疫学調査について」の適用を通知した。

この通知の要旨には、「一般の事業所等で感染者が発生した場合、一律に濃厚接触者を特定し、行動制限を求める必要はない。事業所等は、感染者との接触を理由として、出勤を含む外出を制限する必要はない」との趣旨とともに、「症状がある場合などには、保健所による濃厚接触者の特定等を待つことなく、出勤、登校等の自粛を含めた感染防止対策を自主的に講じることが重要」と書かれている。要するに、職場では濃厚接触が疑われても無症状であれば出勤可能であると解釈される。

読み込んでいくと、感染者と接触のあった者は一定期間、ハイリスク者との接触や不特定多数の飲食等の行動制限、及び外出自粛を含めた感染拡大防止対策をとることと明記されているものの、この内容が正しく伝わるかどうか大いに懸念される。大阪府ではリーフレットを作成し、ホームページで公開しているものの(https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/23711/00419242/jigyousyamuke.pdf)、こうした濃厚接触者ルールが個々の事業所まで周知され、従業員が自主的に出勤の自粛行動をとることはどれだけ可能であろうか。

さらに言えば、対策の原点である感染判明者への初動対応が十分機能しているかについても検証が必要である。たとえば、大阪府が飲食店を対象に発行する感染防止認証ゴールドステッカーの認証基準には、従業員の感染症予防として、「出勤前又は業務開始前に検温・体調確認を行う。発熱(たとえば平熱より1℃以上)や、軽度であっても風邪症状(せきやのどの痛みなど)、嘔吐・下痢等の症状がある場合には、出勤を停止させること」が挙げられている。しかしながら、多くの飲食店は、ギリギリの人手で回しているため、従業員の直前の欠勤には対応できず、微熱なら検査よりも出勤せざるをえない実状と聞く。

事業所といっても、健康経営優良法人もあれば、家内工業的な職場、経済活動に対面で携わる販売、飲食、サービス業など多種多様な中で、従業員への感染拡大防止対策を確実に行う職場こそがコロナとの共生時代の経済を支えると信じたい。そのためには、欠勤時の特別休暇制度、休業期間中の賃金の取扱い、検査を受ける体制等の環境整備が重要である。また、国や都道府県は基本的予防対策の徹底を種々の媒体を介して国民に呼びかけているが、それと同等以上に、職域に対して感染拡大防止対策としての感染判明時の対応や濃厚接触が疑われる際の対処の徹底を図るべきではないか。

北村明彦(八尾市保健所健康まちづくり科学センター総長)[新型コロナウイルス感染症]

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