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「災害からの生存科学」でわかった低体温症対策の重要性〜門廻充侍(東北大学災害科学国際研究所助教)【震災から11年】

No.5109 (2022年03月26日発行) P.6

門廻充侍 (東北大学災害科学国際研究所助教)

登録日: 2022-03-16

最終更新日: 2022-03-16

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災害発生時に生き残れる人を増やし、「生き残って良かった」と
思えるサポートの方法を社会に提案したい

 

せと しゅうじ●1990年大阪府生まれ。2017年関西大大学院社会安全研究科防災・減災専攻博士課程修了。日本学術振興会特別研究員などを経て18年より現職。大学4年生だった11年4月に合同調査チームの一員として宮城県気仙沼市を訪れたのをきっかけに、津波防災の研究と社会実装に取り組む。

東日本大震災から11年。東北大学災害科学国際研究所では、宮城県内での東日本大震災の死因を詳しく分析することで、将来の災害の犠牲者を減らす「災害からの生存科学」というプロジェクトが進んでいる。その責任者を務める門廻充侍氏に、死因調査で明らかになってきたことや今後必要な対策を聞いた。

溺死以外に低体温症で亡くなった人も

─宮城県での死因調査で明らかになったことは?

これまでの津波防災では溺死対策が中心でしたが、東日本大震災では、溺死以外にもさまざまな致死要因があったことが分かってきました。そこで、私たちのプロジェクトでは、宮城県警察本部から提供していただいた9527人の犠牲者情報を基に、溺死以外にどのような亡くなり方があったのか改めて分析し直しました。

その結果分かったのは、低体温症、外傷性ショック、頭部損傷、胸部損傷、頸部損傷、心疾患などの要因で亡くなった方もいたことです。特に、低体温症については、南海トラフ巨大地震、日本海溝・千島海溝沿い巨大地震による津波被害などに備え、早急な対策が必要だと考えています。

─低体温症での死亡は津波で濡れたのが原因ですか。

先行研究では住所地と紐づけているものが多いのですが、私たちの研究では、昼間に起こった東日本大震災の実態を探るために、遺体発見場所も合わせて分析したのが特徴です。個人が特定されないように、提供された遺体発見場所は郵便番号と同じ範囲の位置情報という制約はありますが、低体温症が死因だった23人のうち陸域で発見された22人は全員沿岸自治体で亡くなっていました。

低体温症の遺体発見場所の浸水率は高いところと低いところがあったのですが、浸水率が高い地域で見つかった18人のうち15人は、屋内で亡くなっていました。浸水率が高い地域では、津波から避難したけれども救助を待っている間に、低体温症になって亡くなったのではないかと推測されます。

一方で、浸水域以外の場所で低体温症が原因で亡くなった人もいます。その方たちは住所地とは異なる避難所設置地域が遺体発見場所になっており、避難先で亡くなったことが示唆されます。

藤沢市民病院副院長の阿南英明先生は、日本内科学会誌に2012年に掲載された論文中で、低体温症が生じる要因には、①低い気温環境、②高齢者、③体温喪失物との接触、④熱産生能低下、の4因子があり、それらが複合的に作用するとリスクが高まると指摘しています。2011年3月11日の宮城県気仙沼市の平均気温は−0.3℃、南三陸町では0.7℃で雪が降っており、低い気温環境でした。

また、72.7%が70歳以上で、他の死因に比べ明らかに高齢者の割合が高かったのが低体温症の死亡者でした。70歳未満だった6人のうち4人は60代ですから、9割が60歳以上だったことになります。

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