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【識者の眼】「ウクライナを襲う新型コロナとロシア軍」倉原 優

No.5108 (2022年03月19日発行) P.58

倉原 優 (国立病院機構近畿中央呼吸器センター内科)

登録日: 2022-03-10

最終更新日: 2022-03-10

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現在ではもうどのくらいの感染者が出ているのか類推することは難しくなったが、ロシア軍が侵攻する直前、ウクライナでは1日3万人近い感染者が発生しており、毎日200人以上が死亡していた。日本のように広く調べられているものではないため、人口4100万人のウクライナでは日本よりもかなり新型コロナが広がっていた可能性がある。ウクライナにおける2回目のワクチン接種率は35%とかなり低い数値であったことから、オミクロン株の感染拡大が現在直撃していると想定される。

キエフ市内の病院が砲撃されたのが、意図的であったのか誤射だったのかは知る由もないが、多くの入院患者が避難を余儀なくされたのは事実である。人工呼吸器を外して、手動換気をされているNICUの新生児の姿もSNSで拡散されていた。

感染症パンデミックと戦争で思い起こされるのは、第1次大戦におけるドイツ軍のカイザーシュラハト(1918年春季攻勢)である。アメリカ軍の攻撃に耐えられないと悟り、大量の軍勢が押し寄せる前に、先手攻勢をかけてイギリス・フランス軍に壊滅的ダメージを与える作戦であった。戦略自体は非常に効果的と思われたが、前線の兵士達の間で、致死性の高いスペイン風邪が流行してしまった。これが主因かどうかは諸説あるが、結局のところアメリカ軍に大敗を喫してしまった。

スペイン風邪のように、新型コロナが戦争を解決してくれるとは到底期待できないが、オミクロン株がもしデルタ株よりも致死性が高く、前線の兵士全体に流行するようなことがあれば、また違った歴史になったのかもしれない。

武力ではなく、われわれ人類の英知を結集して平和的解決が行われることを、心より祈る。

倉原 優(国立病院機構近畿中央呼吸器センター内科)[医療SNS]

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