No.5104 (2022年02月19日発行) P.60
武久洋三 (医療法人平成博愛会博愛記念病院理事長)
登録日: 2022-02-01
最終更新日: 2022-02-01
現在の日本人のほとんどは、どんなに地方でもどんなに貧困であっても普段は1人1部屋で暮らしている。終戦後のように六畳一間に4〜5人住んでいた時とまるで違ってしまっている。一家4人でも子どもも含めて自分の部屋で生活している。
しかるに、病気になって病院に入院するとほとんどの人は4〜6人部屋の多床室である。さらに、日本の今の法律では個室料の負担を求めることができるのは全病床数の50%までだということらしい。ということは、国は、病院病床は普通は相部屋でいいと思っているのだろう。要するに、病院病床の全室を個室にすることは日本の制度としては贅沢であると思っていて、個室は別料金を徴収する特別な部屋だという認識だ。
普段は1人1部屋で生活していたのに、病気になって入院したとたんに相部屋になってしまう。同室の患者は病状も様々で左隣のベッドには死亡直前の人がいたり、右隣には認知症で昼夜ゴソゴソするような人がいて寝られないことも起こりうる。健康な時より、病気の時のほうが劣悪な療養環境を強いられるなんて、国は何を考えているのか。また、国民はどうして文句を言わないのか不思議でならない。通常の生活環境よりはるかに厳しい状況で「ゆっくり寝て、たくさん食べて回復してください」と言っているのだ。意識があっても重症ならICUに収容され、昼夜電気が煌々とした状態でスタッフに囲まれていては、ゆっくり寝られるわけがない。どんな病気だろうと病気を治すには、何より十分な栄養、水分の投与、そして十分な睡眠、安静にすることが基本中の基本だ。
日本の医療は根本から間違っている。手術後であろうとがんの末期であろうと感染症であろうと、ろくに眠れないような環境で半ば強制的に入院治療するのを直ちに止めないか。そうすれば、患者の症状は早く良くなり、要介護者も減るだろう。要するに医療保険も介護保険も健全化するだろう。4人部屋を個室にするためには、少々建築費は割高になり、個室化にすることでスタッフの数が割増になるかもしれないが個室化は必須だ。
残念ながら現在の日本人の常識は、病院は相部屋が当たり前で、療養環境は家でいるより悪いが仕方ない、そういうものだと諦めているのだろう。
1日も早く病院治療環境の異常な状態を変えませんか。
武久洋三(医療法人平成博愛会博愛記念病院理事長)[病院病床][療養環境]