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【識者の眼】「希死念慮に対する相談対応」山本晴義

No.5105 (2022年02月26日発行) P.62

山本晴義 (労働者健康安全機構横浜労災病院勤労者メンタルヘルスセンター長)

登録日: 2022-01-31

最終更新日: 2022-01-31

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2020年、コロナ禍の影響を受けて11年ぶりに増加した自殺者数であったが、2021年は2万830人で2年ぶりに前年より減少した。2020年より減ったとはいうものの、コロナ禍前の2019年と比べると661人増加しており、女性や子どもの自殺者数も増えているため、楽観視できる状況ではない。

私は、2000年からの労災病院の社会貢献事業として「勤労者心のメール相談」に22年間にわたり従事している。相談件数は開始からトータルで15万件に上り、毎日のように「死にたい」という文字を目にしているが、そのたびにどきっとするのも事実であり、決して「死にたい」という言葉になれることはない。

言うまでもないが「死にたい」という思いと、実際に最後の行動に及ぶことの間には大きな差が存在する。死にたいと思ってすぐに命を絶つ人はほとんどいない。最後の行動に及ぶにはそれなりの用意や覚悟が必要であり、その間に死をとどまらせることは十分に可能である。

もし、「死にたい」という相談を受けたときは「死ぬなんて考えてはだめだ」とか「生きたいと思っている人がたくさんいるのに」といった正論はナンセンスである。「死にたいほどつらいんだね」と、死にたいという思いを受け止めることが大切である。

なお、近しい関係だと、奮い立たせたいという思いを込めて「死ねるものなら死んでみろ」などの言葉を投げたくなることがあるかもしれないが、自殺の後押しになる可能性も高く、禁忌である。

誠実に思いを受け止めた後は、必ず専門医(心療内科医、精神科医)を受診すること、既に受診されているならば予約を前倒してすぐに受診をするように伝えることが必要である。自殺の予防はできるだけ早期に適切な助けを求められるかにかかっている。助けを求めてきたのならば、求められた側は緊急であるかを判断し、緊急治療を受けるための行動を起こすことである。

山本晴義(労働者健康安全機構横浜労災病院勤労者メンタルヘルスセンター長)[希死念慮][自殺対策][メール相談]

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