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【識者の眼】「漢方薬の効果を発揮させるための方法(2)─ストレスの原因の発見」並木隆雄

No.5099 (2022年01月15日発行) P.66

並木隆雄 (千葉大学医学部附属病院和漢診療科科長・診療教授)

登録日: 2021-12-23

最終更新日: 2021-12-23

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今回も漢方薬の効果を発揮させるために重視していることを書きます。

前回(No.5095)、当部門が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のいわゆる後遺症の外来をしていることを書きました。つい最近、厚生労働省のCOVID-19診療の手引きの別冊として「罹患後症状のマネジメント(暫定版)」が作成されました1)。その緒言には、「不安が募るとさらに(後遺症の症状が)持続悪化すること」(カッコ内は筆者追加)が書かれており、心の問題の重要性を指摘しています。

当部門は、器質的疾患が否定され、精神科などに受診するまでもない患者に一般医としての立場の診療になります。漢方診療とともに傾聴や助言をしますが、さらに心の問題での漢方診療のメリットは、脈や腹を触診するスキンシップがある点です。さらに、漢方診療にはこれら診察法に加えて舌診にも、ストレスにさらされている方の状態を客観的に把握するのに役立つ診察所見(例:胸脇苦満)があります。

ストレスへの反応は、個人差がありますので、ストレス自体の大きさより受けた患者側の反応の程度を診たほうが、影響の大きさもわかるし対処法もわかるので合目的です。そのようにして観察されるストレスは、漢方的には大まかに2つに分けられます。不安に結びつくもの(F)と、怒りや苛立ちに結び付くもの(I)です。明確に分けられずに、両者が混じっている場合もあります。漢方的対応として分ける理由は、それらに対応する処方が個別に複数存在するからです。さらに、体力がない場合(K)も、心は不安定になります。

代表的漢方処方を示します。

F:半夏瀉心湯、帰脾湯、甘麦大棗湯

I:抑肝散、柴胡桂枝乾姜湯、柴胡加竜骨牡蛎湯

F+I:加味帰脾湯

K:補中益気湯、十全大補湯、人参養栄湯、黄耆建中湯

薬を決定する前にもっと重要なのは、ストレスの原因(ストレッサー)を探すことです。ストレッサーが厳然と存在する中で、薬を使っても、底に穴の開いた容器に水を入れるようなもので、まったく無効と私は考えています。患者には、ストレッサーを見つける努力をしてもらいます。多くの方は思い当たることがあるのですが、たまに(1割以下)どうしても思い当たらないという方もいます。残念ですが、その場合、病気は難治になります。それほど、ストレッサーは病気に影響し、漢方治療の成否にも通じます。心の問題がある方は、ストレスの原因の発見こそが漢方薬の効果を発揮させるための要点になるのです。

【文献】

1)新型コロナウイルス感染症診療の手引き. 別冊・罹患後症状のマネジメント. 暫定版.

   [http://www.mhlw.go.jp/content/000860932.pdf] (2021-12-1)   

並木隆雄(千葉大学医学部附属病院和漢診療科科長・診療教授)[漢方][ストレス]

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