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薬剤性腎障害[私の治療]

No.5093 (2021年12月04日発行) P.42

菅野義彦 (東京医科大学腎臓内科学分野主任教授)

登録日: 2021-12-06

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  • 「薬剤性腎障害診療ガイドライン2016」1)では,薬剤投与により新たに発症した腎障害,または既存の腎障害が悪化した場合を薬剤性腎障害と定義している。しかしながら腎障害は自覚症状に乏しく,採血または検尿を行わなければ気づかれないため,長期間放置されていることも少なくない。診断しても特別な治療法はないので,腎障害が発生しうる薬剤を投与する場合には,薬剤性腎障害発症の可能性を予測し,投与後に採血および検尿を定期的に行って,早期発見に努めるのが唯一の対策になる。

    ▶診断のポイント

    腎障害の程度は軽度の尿所見異常から人工透析が必要な重症急性腎障害まで様々であるが,薬剤の使用歴と検査異常の経過を丁寧にすり合わせて関連を類推する。この経過の確認は,逆に薬剤性腎障害を否定することにもつながる。薬剤開始時期の特定は,以前は患者の記憶によっていたため非常に不確実であったが,「お薬手帳」の普及が非常に役立っている。造影剤使用は患者や家族にはわからないことが多いので,CTやMRIの検査を行ったかどうかという聞き方で情報を得る。また,湿布などの非経口薬,市販薬,漢方薬,サプリメントなどに関する情報収集も必要である。

    原因薬剤としては古典的な非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs),造影剤,抗菌薬はもちろん注意が必要であるが,シスプラチンなどの抗癌剤による腎機能低下も一向に減少しない。特にいずれの領域でも患者の高齢化が進んでいることから,薬剤性腎障害を発症するリスクは増加している。最近は特に骨粗鬆症の予防・治療で処方されるビタミンD製剤による高カルシウム血症で,脱水を伴う急性腎障害が発見されることが多い。近年処方が増加している生物学的製剤を含む抗癌剤など専門領域で処方される薬剤の場合には,処方医もそれなりの注意を払って投与後の管理をしていると思われるが,知らない間に加齢に伴う腎機能低下が起きている高齢者に対しては,感冒に対する処方薬剤,鎮痛薬などの一般的な処方にも注意が必要である。また,近年では降圧薬による過降圧により腎血流が低下して腎前性の腎不全をきたす例が少なくない。利尿薬は夏には中止するなど個々の症例の生活環境に合わせた調整で,こうした薬剤性腎障害をかなり予防することができる。

    診断には薬剤使用歴が最も有用であり,検体検査や画像検査だけで確定診断に至ることはまずないが,尿中好酸球数の上昇,ガリウムシンチグラフィでの集積像は補助診断となりうる。腎生検では強い細胞浸潤を伴う急性間質性腎炎の所見となるが,副腎皮質ステロイドの反応性についての検討材料となる。

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