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医者が誤解する患者の言葉─日本語の曖昧さを乗り越える[直感で始める診断推論(7)]

No.5090 (2021年11月13日発行) P.28

生坂政臣 (千葉大学医学部附属病院総合診療科教授)

登録日: 2021-11-15

最終更新日: 2021-11-11

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症例 58歳男性:右わき腹の痛み  
2日前からの同主訴で受診。身体診察で右の肋骨脊柱角(CVA)に叩打痛を認める。


初診医は“わき腹”を側腹部という医学用語に置き換え,同側のCVA叩打痛から尿管結石を考えたが,尿検査に異常を認めないために指導医に相談したケースである。

Ⅰ 日本語の多義性に基づく誤判断

体の部位を表す言葉は,患者と解剖学を叩き込まれた医者との間ではもちろんのこと,人によってかなり異なる。例えば提示症例の“わき腹”が指す範囲は,腋窩直下から腸骨上縁まで,医療者,患者を問わず様々である。ゆえに“わき腹”が痛いと言った場合には,側胸部から側腹部まで,臓器で言えば肺から肝胆道系,大腸,腎,尿管まで鑑別する必要があり,右側では虫垂も含まれる。同様に「わき」と患者が言った場合でも,医療者が想像する「腋窩」ではなく,「腋下」すなわち側胸部を指していることがある。

尿管結石や腎盂腎炎を示唆するCVA叩打痛は胸膜炎を含めて近接臓器の炎症でも陽性となる。本症例は深吸気での疼痛増強も認めていたが,深吸気時に下降する横隔膜が腎臓を圧迫するために,尿管結石でも矛盾しないと担当医は考察したようだ。実際には腎被膜に炎症が及ばない尿管結石で吸気による悪化は考えにくい。胸部CTでは右下肺野の浸潤影と胸水を認め,肺炎・胸膜炎が本症例の右わき腹痛の原因であった(図1)1)

 

このように日本語の多義性に基づく患者と医療者のミスコミュニケーションは頻繁に見られる。たとえば英語圏のdizziness,vertigo,faintness,unsteadinessは,それぞれがまったく異なる病態であるが,日本語ではどれも「めまい」と表現される。また,患者の訴える「しびれ」には医療者が想像する感覚障害だけでなく,運動麻痺が含まれる。ただしこちらは英語圏でも,しびれ(numbness)と脱力(weakness)が間違われることがあるので,正座後のしびれと脱力の切り分けが難しいように,日本語というよりも神経症状の特性から来るものなのであろう。

多義性による混乱を最小限にするために,日本語ならではのオノマトペで対応するとよい。「しびれ」の性状を尋ね,ビリビリするのであれば神経障害性の感覚障害であり,麻痺のことを指しているのではないと分かる。「めまい」の性状も,フワフワ,グルグル,フラフラ,気が遠くなるような,の形容で,それぞれ非回転性,回転性,複合型感覚障害,失神寸前状態などの病態を推察できる。

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