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【識者の眼】「隔離が必要な外国人感染者の通訳」南谷かおり

No.5073 (2021年07月17日発行) P.58

南谷かおり (りんくう総合医療センター国際診療科部長)

登録日: 2021-07-06

最終更新日: 2021-07-06

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新型コロナウイルス感染症で1年延期となったオリンピックが、いよいよ7月に開催される。だが、来日したウガンダ選手団の一人が成田空港にて感染者だと判り、さらにもう一人がホストタウンであり当院が所在する泉佐野市に移動してから陽性となった。彼らはワクチンを2回摂取しており渡航前のPCR検査は陰性だったのに、成田から同行した日本人まで隔離する事態に陥ったことから不安は募る一方である。

当院は未知の感染症でも受け入れ可能な国内4カ所しかない施設の一つだが、隔離の必要な外国人が入院した場合は感染防御と迅速さから遠隔通訳や自動翻訳機を活用している。遠隔といっても遠方とは限らず、院内にいる通訳者にタブレット等を介して訳してもらうこともある。当院で隔離されていた50代のフィリピン人患者は、医師と医療通訳者が同じ部屋から遠隔で病棟の患者に説明した。利点は医療通訳者が直接医師と話せるし、薬剤名や説明書等も見れて内容が把握し易いことだ。ただ、遠隔通訳は便利だが込み入った話になるとその場の雰囲気がつかみ辛く、淡々と訳すことになってしまう。この患者はただでさえ不安なうえに医師から重症化のリスクを聞き泣き出したので「あくまでも可能性だから」と当院の通訳者が医師の言葉を強調した。

別の在日ネパール人の感染症患者は、院内に通訳者がいないため隔離病棟から遠隔通訳を利用した。患者との意思疎通は良好だったが、自宅待機となっていた濃厚接触者である家族が患者を心配するあまり電車に乗って病院を訪れようとしていることが発覚した。来ても院内には入れないようにと一時は大騒ぎになったが、結局は患者から直接連絡させて家に留まらせた。自宅待機を遵守しなかったのは意味が通じていなかったのか、厳格さが伝わらなかったのか、それでも来院せずにはいられなかったのか不明だが、監視できない外国人の理解を促すのは大変だと痛感した。果たしてオリンピックは?

南谷かおり(りんくう総合医療センター国際診療科部長)[外国人診療]

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