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顔画像センシング技術の恩恵[先生、ご存知ですか(41)]

No.5066 (2021年05月29日発行) P.67

一杉正仁 (滋賀医科大学社会医学講座教授)

登録日: 2021-05-26

最終更新日: 2021-05-25

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私たちは身近な医療機器を通して、画像に関する技術の進歩を日々感じています。特に顔画像センシング技術では、個人の識別が高精度で可能になり、セキュリティー対策として用いられています。また、画像から自動で人の顔を検出し、年齢や性別を推定するシステムが実用化されています。たとえば、商業施設などの入り口に設置して、年齢層や性別ごとの来場者数を確認し、購買層の動向調査などにも役立てているそうです。

年齢推定機能に注目

さて、私たちはこの年齢推定機能に注目しました。自動的に年齢が推定されれば、まず、認知症や精神疾患などで徘徊している人の年齢がおおよそ分かり、身元の特定に役立てられるかもしれません。

そこで、このシステムで開眼している人の顔を正面から撮影し、実年齢とどの程度違いがあるかを確認しました。すると、画像による推定年齢と実年齢との間に高い正の相関を認めました(R=0.78)。次に閉眼した顔を撮影したところ、さらにその精度は高くなり、相関係数は0.82まで上がりました。そして、対象とした人の93%で、推定された年齢は実際の年齢の前後10歳以内でした。

このような、精度の高い年齢推定は、顔における様々な部分間の距離、皮膚の色調、しわなどの情報を総合して判断しているようで、背景には膨大な基礎データがあるそうです。医学での利用はもちろんですが、防犯カメラで捉えられた不審者の年齢が分かれば、犯罪捜査にも役立ちそうです。

身元確認・死体検案への応用

近年、わが国では様々な大規模事故や災害が発生しています。1994年に発生した中華航空機墜落事故では264人が死亡しました。2011年に発生した東日本大震災では死者および行方不明者は併せて約2万2000人で、2016年の熊本地震では258人が死亡しました。このような大規模事故や災害では多数の死者に対する身元確認・死体検案が行われますので、年齢推定も必要になります。

年齢推定は頭髪や体毛を含めた外見の風貌、残存歯牙の状態などをもとに行われますが、多数の死体に対応する際には、専門的知見を持つ専門家がこれらを正確に観察して判断するため膨大な時間を要します。そこで、先ほどの顔認証システムが死体の年齢推定に応用できないか検討しました。

亡くなった人を対象に、顔認証システムで推定された年齢の正確さを検討しました。その結果、実年齢との間に正の相関があるものの相関係数は0.69と、生存者よりも低いことがわかりました。そして、推定年齢が実年齢の前後10歳以内であったのは、全体の39.3%にすぎませんでした。亡くなった人では寝ている状態を撮影するので、このことが影響しているかとも考えましたが、生存者では寝ている人でも高い精度で判定されていました。

顔認証システムは、生存している人の年齢推定には有用ですが、現段階では亡くなった人に対しての有用性は低いようです。しかし、今後の技術の進歩によって、亡くなった人にも利用できる日が来るかもしれません。大規模事故や災害が起こらないことを願っていますが、その際に短時間で簡便に年齢推定が可能になれば、一刻も早くご遺体を家族のもとにお返しできるようになるでしょう。

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