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嗄声[私の治療]

No.5062 (2021年05月01日発行) P.51

櫻井 淳 (日本大学医学部救急医学系救急集中治療医学分野准教授)

登録日: 2021-04-30

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  • 嗄声とは声がかすれることであり,発声障害の一種である。嗄声の病態は発声の機序を理解するとわかりやすい。発声をつかさどる経路は下位脳幹,迷走神経,声帯であり,それぞれの障害により嗄声が発症しうる1)。治療は原因により様々なため診断の後に治療を開始する。ただ,声帯は気道の構成要素であり,嗄声が気道緊急を示す前駆症状の場合があるため,場合によっては緊急処置が必要となる場合があることに注意する。

    ▶病歴聴取のポイント

    嗄声の原因部位としては喉頭,神経筋接合部,迷走神経(頭蓋外,頭蓋内),脳幹があり,原因病態として炎症,腫瘍,血管病変(動脈瘤,脳虚血),中毒,外傷(熱傷含む),アレルギー,内分泌,変性疾患と多岐にわたるため,それらを考慮した病歴聴取が必要となる。以下に対して病歴聴取を行う2)

    声特有の問題:発症は突然かどうか,発声時に痛みがあるか,発声していると気分が悪くなったり疲れたりするか,しゃべるときに呼気が抜けるか 等

    症状:異物感,嚥下困難,咽頭痛,咳,嚥下痛,鼻水,後鼻漏,胸痛,胃酸逆流,胸やけ,口臭,熱発,血痰,体重減少,盗汗,耳痛,呼吸困難感 等

    嗄声に関連する病歴:職歴(声をよく使う職業か,嗄声のための休業の有無),嗄声の既往,発症の契機(気管挿管歴,手術,外傷),認知障害,不安

    急性疾患の状態:喉や喉頭の感染症(ウイルス,細菌,真菌),喉頭・気管・食道の異物,頸部・咽頭の外傷

    慢性疾患の状態:脳梗塞,糖尿病,パーキンソン病および進行性核上性麻痺,重症筋無力症,多発性硬化症,筋萎縮性側索硬化症,テストステロン欠乏,アレルギー性鼻炎,高血圧症・統合失調症・骨粗鬆症・喘息(これらの疾患の内服薬や吸入薬が嗄声をきたすため),胸部大動脈瘤,喉頭癌,肺癌,甲状腺癌,甲状腺機能低下症,声帯ポリープ,声帯麻痺,声の酷使,化学性喉頭炎,長期喫煙,シェーグレン症候群,飲酒歴

    薬剤としては,ワルファリン・血栓融解薬・ホスホジエステラーゼ5-阻害薬(声帯血腫),ビスホスホネート製剤(化学性喉頭炎),ACE阻害薬(咳),抗ヒスタミン薬・利尿薬・抗コリン薬(粘膜乾燥),テストステロン・ダナゾール(性ホルモンの産生変化),向精神薬(喉頭ジストニア),吸入ステロイド(粘膜の炎症,真菌性喉頭炎)が嗄声をきたしうるので,投薬歴も聴取する必要がある。

    ▶バイタルサイン・身体診察のポイント

    【バイタル】

    嗄声に伴い理学所見から気道緊急を疑った際には,SpO2を含むモニタリングを直ちに施行して継続的なバイタルサインの把握に努める。気道緊急を認めなければ通常のバイタルサイン測定でよい。

    【身体診察】

    嗄声があり,呼吸困難,努力呼吸,陥没呼吸,シーソー呼吸,stridor,wheezeを認めたら上気道狭窄による気道緊急を疑い,緊急の処置が可能な体制をとる。緊急性がないと判断したら,病歴や随伴症状を考慮して疾患を推論しながらの身体診察を行う。

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