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【識者の眼】「医療機関への指示・命令とインセンティブの使い分け」草場鉄周

No.5059 (2021年04月10日発行) P.64

草場鉄周 (日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)

登録日: 2021-03-17

最終更新日: 2021-03-17

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北海道で全国に先駆けて北海道独自の緊急事態宣言が出されたのが2020年2月28日。それから1年が過ぎた。この1年を振り返ると、国や都道府県からの国民や事業者への自粛要請による感染抑制へのアクセルとブレーキの繰り返しが政策の中心であり、指示や命令は注意深く避けられてきた。医療機関もしかりであり、当初から公的な役割を担うことが設置の前提となっている公的医療機関以外の民間医療機関については、あくまでも「お願い」をベースに全ての事業が展開されてきた。

私の運営する医療法人も純然たる民間医療機関である。ただ、コロナ禍の中では公営・民営は関係ないと考え、外来や在宅の有熱患者の診療やPCR検査にも積極的に取り組み、普段かかりつけではない住民をたくさん診察する機会があった。もっと多くの診療所が参画すれば住民の利便性も増すと考えたが、行政が指示・命令する権限はないので仕方ないと諦めざるを得なかった。

そもそも、日本の医療システムは公共の観点から第三者が指示・命令を行う仕組みはほとんどない。自ら選んで、そうした役割を災害や救急などで担うことはあっても強制されはしない。その動機は経済的あるいは社会的なインセンティブである。診療報酬の仕組みはその最たるもので、取り組まないと経営的に厳しいから取り組むというのが医療経営の基本的思考となっている。

もちろん、自由は大切であり、積極的な理由で行動する方がベターである。ただ、危機にあたっては、不安や恐怖の中で公共に資する行動をとる者がマイノリティーになりやすいため、公益のために個々のプレーヤーの行動を指示や命令で方向付けることで、全体最適を目指すことも正当化されるのではないだろうか。そろそろ、医療においても公営・民営の区別なく、指示・命令とインセンティブをどう使い分けるかを真剣に考える時期が来たと思う。

草場鉄周(日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)[総合診療/家庭医療]

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