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【識者の眼】「なぜ患者のウイルス量が減少するにもかかわらず、病状が悪化するのか」高橋公太

No.5053 (2021年02月27日発行) P.54

高橋公太 (新潟大学名誉教授、日本臨床腎移植学会元理事長)

登録日: 2021-02-16

最終更新日: 2021-02-16

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表題の回答は意外と単純である。一つの病態に始まり、やがてもう一つの異なる病態が生まれ重なり競い合って、やがてまた一つの病態に変貌する。これらの病態が混在している時に、ただ闇雲に抗ウイルス薬や抗炎症薬を単独投与しても思ったほどの効果がみられないことは当然である。

また、サイトカインは、1954年に長野泰一の発見したインターフェロンを皮切りに、現在、数百種類が同定され報告されている。そのなかには 炎症性サイトカインも多数あるので、特異性の高いモノクローナル製剤よりも、既感染者のポリクローナル血清抗体の効果がよいこともうなずける。

これらの事実を考慮に入れれば、今までの治験方法にも問題があることは明白である。大枚をはたいて、背景因子が同様でも病態の進行度の条件がそれぞれ違う患者を同一母集団として扱って、実薬投与群と偽薬、または既薬投与群の2群に分けて実施する比較試験で、有意差を求めること自体がナンセンスである。月並な格言ではあるが、「人間は考える葦」を思い出してほしい。

さて表題に戻るが、この最大の謎のヒントが「患者のウイルスの増殖とその量」に隠されている。新型コロナウイルス感染症は、1日〜2週間の潜伏期を経て発熱や全身倦怠感などを主訴とする感冒症状として発病する。患者のウイルス量はこの時期が一番多いことが報告されている。宿主の免疫(感染)防御機能により肺の感染細胞を修復するために免疫担当細胞が動員され、サイトカインが放出されウイルスの増殖は抑制されその量も減少する。しかし、それに反して逆に病巣が拡大するのは、免疫担当細胞の攻撃に歯止めがかからずサイトカインが過剰に放出されサイトカインストームが発生し、その結果、自己の肺組織を障害する免疫炎症性反応、すなわち、急性免疫介在性炎症性間質肺炎(acute immune-mediated inflammatory interstitial pneumonitis)が発症する。さらに病状が悪化すれば急性呼吸窮迫症候群を伴う呼吸器不全で死亡する。

早期にPCR検査の陽性、SpO2の異常低下、および胸部CT所見にてすりガラス状陰影のトリアスをみつけ次第、新型コロナウイルス間質性肺炎と診断した上、ウイルス感染症と間質性肺炎が合併している病態と考え、抗ウイルス薬と副腎皮質ステロイド薬に代表される抗炎症薬を直ちに併用投与する。

早期に間質性肺炎の診断と両面作戦の治療を実施すれば、患者は速やかに回復に向かう。患者の急激な悪化と速やかな回復は免疫介在性炎症性反応の一つの特徴と言える。

【参考文献】

▶高橋公太:日本医事新報. 2021;5050:72.

▶高橋公太:腎と透析. 2020;89:735-43.

▶高橋公太:腎と透析. 2021;90:289-301.

▶高橋公太, 編:臓器移植におけるサイトメガロウイルス感染症. 日本医学館, 1997.

▶Grundy JF, et al:Lancet. 1987;2:996-9.

▶南嶋洋一:臨床とウイルス. 1990;18:30-4

▶To KK, et al:Lancet Infect Dis. 2020;20:565-74.

高橋公太(新潟大学名誉教授、日本臨床腎移植学会元理事長)[新型コロナウイルス感染症]

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