【食事療法を長く継続させるためにも柔軟な対応が望まれる】
糖尿病の予防・管理のための,望ましいエネルギー産生栄養素比率については,これを設定する明確なエビデンスがないことが明記され,患者の身体活動量,併発症の状態,年齢,嗜好などに応じて,柔軟に対応することとなった。
実際には栄養素バランスの目安は,健常人の平均摂取量に基づいて勘案してよい。「日本人の食事摂取基準2020年版」では,成人の基準として炭水化物50~65%エネルギー,蛋白質13~20%エネルギー,脂質20~30%エネルギー(飽和脂肪酸7%以下)としている。また,13年の「日本人の糖尿病の食事療法に関する提言」でも,炭水化物50~60%エネルギー,蛋白質20%エネルギー以下を目安とし,残りを脂質とするが,脂質が25%エネルギーを超える場合は,多価不飽和脂肪酸を増やすなど,脂肪酸の構成に配慮をするとしている。栄養素の摂取比率は,個人の食習慣や嗜好,地域の食文化を反映しているため,食事療法を長く継続させるためにも柔軟な対応が望まれる。
炭水化物摂取量についても,身体活動量やインスリン作用の良否により,一率の目標量設定は困難とされた。実際に我々の日本人2型糖尿病患者における調査でも,炭水化物摂取割合と合併症発症率との間に有意な関係はみられなかった1)。ただし,総エネルギー摂取量を制限せずに,炭水化物のみを極端に制限することによって減量を図ることは,その効果のみならず,長期的な継続可能性や安全性などの点でエビデンスが不足し,現時点では勧められていない。
【文献】
1) Horikawa C, et al:Nutrients. 2017;9(2). pii:E113.
【解説】
曽根博仁 新潟大学血液・内分泌・代謝内科教授