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【識者の眼】「日本で癌を発症したフィリピン人女性、技能実習生の健康保険加入の徹底を」南谷かおり

No.5043 (2020年12月19日発行) P.61

南谷かおり (りんくう総合医療センター国際診療科部長)

登録日: 2020-12-09

最終更新日: 2020-12-09

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フィリピンから来日した20代女性の技能実習生。食品加工会社で実習を始めて4カ月が経った頃から咽頭痛と時々血痰が出るようになり当院を受診した。頸部に無痛性のリンパ節腫脹を認め家族歴から最初は結核が疑われたが、生検から上咽頭癌が見つかった。

患者の実習先の会社は本人を「協会けんぽ」に加入させており、医療費の自己負担に関しても民間の保険でカバーできるようにしていた。民間の掛け金は実習生持ちが多いが、もしもの時に家族を日本へ呼んだり本人を母国へ搬送したりできるよう、会社が加入させるらしい。

患者は化学療法と放射線治療のため半年ほど入院した。入院中は当院のフィリピン人医療通訳兼コーディネーターが必要時にサポートした。患者は異国で癌を宣告され独りで心細かったろうに、入院中は病人の車いすを押すなどよく気が利く娘で看護師たちからも可愛がられた。そして患者は治療を乗り切り、癌は完全寛解となった。

フィリピンでは公的医療保険制度が存在するものの保証は十分と言えず、医療レベルも病院や場所によって格差がある。地方の農家出身だったこの患者が母国で発症していたら、治療費は支払えず生き延びるのは無理だったであろう。実習生として来日し、受け入れ先の会社が法律に沿って日本の公的保険に加入させていたのでスムーズに治療が受けられた。

日本に90日以上滞在する外国人は健康保険への加入が義務付けられているが、罰則はなく違反は珍しくない。本人が健康体で自腹を好むのか、会社が保険料を払いたくないのか、民間の保険でカバーしているのか、色々考えられる。最近、ベトナム人実習生の劣悪な雇用環境と逃亡者が犯罪に加担する現状が取り沙汰されているが、我が国に必要な労働力として外国人を受け入れるのなら安心して暮らせる環境と規則の徹底が急務である。怠れば医療費の未収や盗みによる治安の悪化など、結局は私たちに付けが回ってくるのではなかろうか。

南谷かおり(りんくう総合医療センター国際診療科部長)[外国人診療]

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