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【識者の眼】「安心して年末と正月を迎えるために」和田耕治

No.5040 (2020年11月28日発行) P.53

和田耕治 (国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授)

登録日: 2020-11-19

最終更新日: 2020-11-19

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寒さのために室内での活動が増えている、徐々に感染対策が行われなくなっている、見えているクラスターは対応されているものの見えにくいところでの感染が広がっている、など複合的な要因があるのでしょうが、新型コロナウイルスの感染者が増えています。このままでは、医療従事者、患者、市民は安心して年末を迎えることができません。

年末までにある程度感染者を抑えるためには、これまでの経験からすると、3週間前の感染状況の評価と介入が必要です。12月24日を感染が落ち着いた日の目標にすると、その3週間前は12月3日です。12月上旬の感染者が増加傾向だったり、減少傾向が確認できなければ、それは個人の感染対策への呼びかけだけでは不十分ということになり、市民に対してある程度の社会的な介入を行う必要が出てきます。

現在感染が拡大している東京などの都市は、こうした事態の長期化に伴い、知事なども経済の動きを止めるような呼びかけができていません。経験値は増しているものの、対策に向けた意思決定は自殺者の増加や貧困の深刻化とともに複雑になっています。

クラスターも多様化しており、繁華街で夜は早めに店を閉めていただければ感染が収まるという疫学状況ではありません。それ故に、以前も緊急事態宣言の際に求めた「接触機会の削減」が必要となります。具体的には人と会う回数を減らすことです。会うのは家族や親しい友人だけとし、様々な人と会って話す機会を減らします。かつて「人との接触8割減」という目標がありましたが、その呼びかけにより比較的早く感染が収まりました。これを再び自治体や市民のリーダーなどから呼びかけていくことが必要な日が近づいてきています。

ある臨床の先生からの「病院は患者さんの治療はできるが、感染者を減らすことができるのは公衆衛生であり、行政や政治の役割である」というお声は、十分に心にしみております。今こそ、感染者を減らす対策をしっかりと打ち込まなければいけない時期だと考えています。

技術的なことは公衆衛生から提言できますが、最後に決めるのは行政であり政治です。行政や政治においては、緊急事態宣言を避けるためにも、皆が年末を穏やかに迎えられるためにも、そして経済を回すためにも今一度、感染者を減らすことが大事であるという価値観を持っていただき、必要な意思決定を下すことを期待しています。

和田耕治(国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授)[新型コロナウイルス対策]

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