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尋常性白斑[私の治療]

No.5035 (2020年10月24日発行) P.33

川上民裕 (東北医科薬科大学医学部皮膚科学教室主任教授)

登録日: 2020-10-25

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  • 表皮基底層に存在するメラノサイトが様々な原因で作動しなくなり,メラノサイトが産生するメラニン色素が消失して,皮膚の色が消える。皮膚色が部分的に欠損する限局型,広範囲に欠損する汎発型がある。全人口の1%もの人が罹患しているとされる。全身疾患には発展しないが,皮膚色が脱色するという外観の問題から,患者QOLは医師が想像する以上に低い。

    ▶診断のポイント

    皮膚色が,境界がくっきりと脱色する。白色の斑である。視診での診断が可能である。脱色素性母斑や老人性白斑などと時に鑑別が困難であり,皮膚科専門医の受診が必要となる。Wood灯で照射すると青白色の光を発する。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    治療に抵抗性が多く,早期に治療効果が出ないことを患者に伝える。個人差があり,大抵は1年前後で進行が止まる。しかし,症状が進んで全身に及ぶこともある。すなわち,汎発型は難治である。再発も多い。通常は,副腎皮質ステロイドの外用から治療を開始する。効果に関しては,限局型は75%の色素再生,汎発型は20%程度である。ステロイドは長期使用において,外用した部位に一致して皮膚萎縮,痤瘡などの皮膚感染,毛細血管拡張が生じる。したがって,2~3カ月のステロイド外用で効果がなければ,他の治療法へ変更することも多い。

    ついで,免疫抑制外用薬であるタクロリムス軟膏を使用する。残念ながら保険適用はない。ステロイド外用のような副作用はないが,しばしば外用した皮膚に刺激感(ピリピリするなど)を訴えることが知られている。使用開始時に,この副作用を患者に十分説明しておけば問題ない。慣れれば克服できる。タクロリムス軟膏も2カ月までに効果がなければ,他の治療へ変更する。

    3番目に,紫外線療法(光線療法)が挙げられる。かつてはPUVAが使用されたが,機種の改良が進み,ナローバンドUVB療法(UVBの波長が311±2nm),エキシマライト・エキシマレーザー(UVBの波長が308nm)が主流となっている。紫外線にはA波(UVA),B波(UVB),C波(UVC)があるが,地上に届くのはUVAとUVBである。日光皮膚炎(日焼け)の原因はUVBであり,UVAを使用した紫外線療法がかつて中心であった。すなわち,光毒物質のソラレン(P)とUVAを組み合わせたPUVAである。PUVAはソラレンを使用するため煩雑であったことから開発されたのが,ナローバンドUVB療法である。日光皮膚炎を回避するため,特定の波長のみを使用した器械として開発された。さらに改良が加えられたのがエキシマライト・エキシマレーザーである。紫外線療法の施行に際しては,過剰な照射による日光皮膚炎や,皮膚癌を中心とした発がんの危険性が常に言われている。そこで,改良されたナローバンドUVB療法,エキシマライト・エキシマレーザーであっても,照射量や回数制限などに注意を払う。まず6カ月間の施行で,効果を検討する。ナローバンドUVB療法,エキシマライト・エキシマレーザーは,中長期的な皮膚癌の発症頻度がどの程度であるかがまだ十分に検証されていないので,15歳以下の小児に対する紫外線療法は慎まれている。ちなみに欧米では,8歳以上から紫外線療法を使用することが広く容認されている。活性型ビタミンD3外用薬は,ステロイド外用のような副作用がなく,紫外線療法と併用して初めて効果が発揮される。すなわち,紫外線療法と併用して外用する。

    そのほかの治療としては以下のものがある。
    外科的治療:1年以内に病勢の進行のない症例に対して,整容上問題となる部位のみに行われる。分層植皮術,表皮移植術,ミニグラフト(健常皮膚から1mmトレパンパンチバイオプシーを使用して多数の箇所から採皮し,同様に1mmトレパンパンチバイオプシーで白斑部の皮膚を排除してそこに移植する),培養技術を用いないメラノサイト懸濁液注入法,培養技術を用いたメラノサイト含有表皮移植術/懸濁液注入法がある。

    ステロイド内服:進行性の症例にのみ使用される。ステロイドパルス点滴治療も時に導入される。尋常性白斑は全身症状を伴わないので,全身的な副作用が必発であるステロイド内服の採用は,慎重となることが多い。

    カモフラージュメイク療法:化粧品を用いてカモフラージュする治療法である。保険適用はない。特に露出部分に病変が存在する際は導入を検討する。

    ハイドロキノンモノベンジルエーテルによる脱色素療法:尋常性白斑に罹患した米国歌手のマイケル・ジャクソン(故人)が行ったことで知られる。白斑部の面積が広く,他の治療に反応しない場合に,正常部の皮膚を脱色して皮膚色を統一する治療法である。

    ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬:今後,保険申請から採用される可能性がある。

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