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急性胃炎[私の治療]

No.5034 (2020年10月17日発行) P.42

小髙康裕 (日本医科大学武蔵小杉病院消化器内科講師)

二神生爾 (日本医科大学武蔵小杉病院消化器内科教授)

登録日: 2020-10-20

最終更新日: 2020-10-14

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  • 急性胃炎(acute gastritis)とは,外因性あるいは内因性要因により胃粘膜に急性の炎症性変化が惹起された状態である。突発する上腹部症状を主徴として,病理組織学的に認められる好中球主体の炎症細胞浸潤,浮腫,うっ血,びらんを背景に,内視鏡検査では胃粘膜に高度の発赤や浮腫,びらんなど多彩な変化を示す。特に内視鏡所見において胃前庭部や十二指腸を中心に,広範囲に多発するびらん,出血,潰瘍形成などを伴う症例を,急性胃粘膜病変(acute gastric mucosal lesion:AGML)という。
    原因の約16~64%が薬剤であり,非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)によるものが40~60%,抗菌薬によるものが約10%,スロイドによるものが10%弱となっている。その他,ストレス,感染(アニサキスやH. pyloriなど),食事(アルコール,刺激性食品,食物アレルゲン,高温の食事など),医原性(放射線照射治療,肝動脈塞栓術など)などが挙げられる。
    薬物療法が効果的であり,予後は比較的良好で,発症要因が的確に除去された場合,ほとんどの症例が1~2週間で治癒に至る。

    ▶診断のポイント

    基礎疾患,ストレスの有無,内服歴(NSAIDsなど),食事内容(生鮮魚類や刺激性食品など),検査・治療歴(内視鏡検査や放射線治療)などについて十分な問診を行い,発症要因を明らかにすることが重要である。

    【症状】

    急激に生じる強い上腹部痛や悪心・嘔吐,胃部不快感で発症することが一般的であるが,ステロイド内服中の症例や高齢者では,症状を自覚しにくいこともある。消化管穿孔および感染の合併がなければ,38℃以上の発熱を認めることは稀である。出血量が多い場合は,頻脈や血圧低下などのショック症状を呈し,吐血・下血を伴うことがある。

    【検査所見】

    血液検査では貧血,出血傾向の有無を確認する。軽度の白血球増多を認めることも多い。腹部超音波検査は,胃壁肥厚が観察されることがあるほか,他疾患の鑑別にも有用である。
    上部消化管内視鏡では,胃粘膜の発赤や浮腫,びらん,浅い潰瘍,出血など,多彩な変化が認められる。特にAGMLでは,主に胃前庭部や十二指腸において広範囲に潰瘍形成を伴う。
    鑑別疾患として,急激な腹痛では急性胆囊炎,急性胆管炎,急性膵炎,吐血・下血では消化性潰瘍や胃・食道静脈瘤,胃癌,マロリー・ワイス症候群などが対象となる。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    治療の基本は,発症要因の除去と安静,薬物療法であり,軽症例では発症要因の除去だけで軽快する。食事摂取が可能な場合は,消化のよい食事を摂り,刺激物を避ける。強い悪心・嘔吐がある場合は,絶食・補液管理とする。吐血・下血を認める場合は,全身状態と出血状況を把握し,必要に応じて内視鏡的止血術を実施する。止血が確認されるまでは絶食・輸液とし,必要に応じて輸血を行う。内視鏡検査でアニサキスが認められた場合は,虫体の摘出を行うと速やかに症状は軽快する。
    薬物療法として,酸分泌抑制薬であるカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB),プロトンポンプ阻害薬(PPI)やヒスタミン受容体拮抗薬(H2受容体拮抗薬),胃粘膜防御因子増強薬,制酸薬,抗コリン薬の投与を行う。NSAIDsが原因の場合,プロスタグランジン製剤が有効である。

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