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コロナ禍で深刻化するクリニックの後継者不在問題─早期からの承継検討がカギ【まとめてみました】

No.5028 (2020年09月05日発行) P.14

登録日: 2020-09-03

最終更新日: 2020-09-03

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医療機関の後継者不在問題は、日医総研が2019年に公表した医業承継に関する実態調査のレポートで「医業承継は多くの会員にとって間近に迫る問題」と指摘したように、医療界の大きな課題の1つとなっている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で経営環境が悪化し、より深刻さを増す医療機関の後継者不在問題について解説する。

日本社会の少子高齢化は世界に類を見ないスピードで進んでおり、様々な社会問題を引き起こすことが懸念されている。その1つが、後継者不在によって存続の危機を迎える事業体の多発だ。経済産業省は、団塊の世代が後期高齢者になる2025年までに、日本企業全体の約3割(127万社)が後継者不在によって廃業する可能性があると指摘している。中でも中小企業を巡る状況は深刻で、2013年~15年に休廃業・解散した中小企業のうち半数以上が、黒字にもかかわらず事業継続を断念する“黒字廃業”であることが分かっている。

黒字廃業する主な要因は、後継者不在によるものとされ、民間中小企業においては3分の2が後継者不在の問題に直面しているというデータがある。しかし、これを上回る危機的状況にあるのが医療機関だ。

無床診療所の89.3%が“後継者不在”

日医総研の調査によると、2017年時点の医療機関の後継者不在率(図1)は、有床診療所が79.3%、無床診療所が89.3%、病院が68.4%となっており、全業種平均の66.5%と比較すると、特に診療所における後継者不在率が高いことが分かる。

診療所のデータを地域別(図2)に見てみると、東北北海道が92.0%と最も高い。関東甲信越(87.8%)、近畿(87.4%)も全国平均(86.1%)を上回っており、大都市圏でも後継者不在の問題が深刻化している状況が浮き彫りになった。

この調査による「後継者不在率」は、「後継者がいない」割合を示すものではなく「後継者が決まっていない」割合を示していることから、必ずしも廃止・休止につながるものではない。

 

しかし診療所開設者・法人代表者の年齢は60歳以上が半数を超え(図3)、高齢化が顕著だ。診療所は新規開設が廃止を上回っていることから(図4)、施設数は漸増傾向にあり、新規開設が都市部に集中する傾向が強まってはいるものの、行政や医師会の取り組みによって無医地区は増えていない。すぐに地域医療の崩壊に直面するとは考えにくいが、診療所開設者・法人代表者の年齢分布から、診療所の廃院・休院が今後も増え続けることは確実とみられる。

医療機関の後継者をすぐに見つけることは通常難しいため、他の産業と比べても危機的な状況にあることは間違いないと言える。

コロナ禍で外来患者数が激減

診療所の後継者不在問題をより深刻化させる要因となるのが、COVID-19の影響による医業収益の落ち込みだ。子どもや親族に承継する計画を立てていたとしても、経営状況が悪化すれば、譲り受ける側のリスクは高くなる。医療機関は人件費など固定費の割合が高い労働集約型産業の代表的存在。医業収益が数カ月落ち込んだことで運転資金に支障をきたす恐れが出てきたとして、金融機関からの借り入れを申請する医療機関が増えている。承継する際には、当然負債も引き継ぐことになる。譲り受ける側からすれば「しばらく勤務医を続けよう」といった気持ちが芽生え、承継の予定が白紙に戻ってしまう事態になりかねない。

日本医師会によれば、5月の診療所の外来は、実患者数に相当する「総件数」、延べ患者数に相当する「総日数」、入院外保険収入の「総点数」のすべてが対前年同月比で2割以上減少した。3~5月の平均では総件数が16.5%、総日数が18.0%、総点数が16.4%の減少で、6月以降も多くの医療機関で前年割れが続く見込みだ。

中小事業者向けの「持続化給付金」は、前年比で50%以上の売上減が要件のため、多くの医療機関は対象外になるとみられる。極めて厳しい状況が続いており、このままでは廃院・休院する診療所が続出するとの見方もあるが、その中であらためてクローズアップされているのが、第三者承継という選択肢だ。

医業承継には10年スパンでの検討が重要

従来は医療機関の承継と言えば、子どもや娘婿などの親族から後継者を選び、いなければ最後の手段として第三者への承継を検討するというのが一般的だった。しかし医療機関の事業承継を数多く手がける日本M&Aセンターの医療介護支援部によれば、実際には、後継者として考えていた親族から「臨床医として病院で専門性に磨きをかけたい」「家族と都心部で暮らしたい」「全国・海外を回り様々な医療を経験したい」などの答えが返ってくるケースが多く、第三者への仲介依頼が増えているという。

第三者承継は、譲渡側にとっては経済的な利益、スタッフの雇用確保、地域住民に継続して医療を提供できるため医師としての責任を全うできるなどのメリットがある。 譲受側にとっては、患者や設備、スタッフなどをそのまま引き継ぐことになるため、開業準備に必要な時間や労力を最小限に抑えることができるという大きなメリットがある。新規開業は通常、開業後数年は赤字基調となるが、コロナ禍で患者数が減少する中、地域に馴染みのないクリニックを開業するのはさらにリスクを増大させる可能性が高い。Withコロナの時代に承継開業を検討する医師は今後増えることが予想される。

事業承継は譲渡側と譲受側のタイミングがマッチするかがカギだ。承継のタイミングを逃さないために注意すべきポイントについて日本M&Aセンター医療介護支援部は「第三者への譲渡はもちろん、子どもや親族を後継者にしたいと考える場合であっても、10年スパンで検討を進められるような早めの準備が大切になる」としている。

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