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日本感染症学会「COVID-19シンポ」詳報:ステロイド投与で急速に改善した症例など報告─ワクチンへの過度な期待に警鐘も【Breakthrough 医薬品研究開発の舞台裏〈特別編〉】

No.5027 (2020年08月29日発行) P.14

登録日: 2020-08-26

最終更新日: 2020-08-26

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日本感染症学会学術講演会の緊急企画として「COVID-19シンポジウム」が8月20、21日、2日間にわたって都内で開かれ、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の臨床・研究の最新状況が報告された。COVID-19の治療については防衛医大内科学(感染症・呼吸器)教授の川名明彦氏がステロイド薬の有効性についてさらに検討すべきと指摘。ワクチンについては、コロナウイルスの研究者として知られる国立感染症研究所室長の松山州徳氏が、各国で開発中のワクチン候補で「安全性に懸念のないものは今のところない」との見解を示し、過度な期待に警鐘を鳴らした。治療薬・ワクチンの話題を中心に専門家からの報告を紹介する。

「ステロイド薬の有効性、さらに検討を」

川名氏、松山氏は20日のシンポに参加。

呼吸器内科の専門家として感染拡大の初期段階からCOVID-19の診療に携わってきた川名氏は、7例の臨床症例を報告する中で、ステロイド使用例として①ステロイド投与後急速な肺炎の改善と解熱が見られた例(40代男性、特記すべき既往症なし)、②ステロイドにより肺の線維化が予防できたと思われる例(50代男性、高血圧・糖尿病・喫煙歴あり)─を紹介。

①の症例は、入院当初は胸部画像の異常もそれほど見られず重症でないと判断したものの、入院直後から39℃を超える高熱が続き、入院第6病日に胸部CTですりガラス状陰影の拡大を確認。酸素必要量も3~4L/秒まで増えたため、抗ウイルス薬ファビピラビル、吸入ステロイド製剤シクレソニドに続いて、入院第11病日頃からメチルプレドニゾロンによるステロイドパルス療法を行ったところ、急速に解熱、酸素必要量も少なくなり明らかに臨床症状が改善したという。

②の症例は、比較的時間が経過した後(入院第16病日)からファビピラビル、シクレソニドに続いてステロイド薬を投与したケース。すりガラス状陰影の濃度上昇、気管支拡張の所見も見られ、肺の線維化が進行し慢性呼吸不全を残す可能性も想定されたため、ステロイド薬プレドニゾロン投与を開始したところ、劇的に改善し、後遺症を残さず退院に至ったという。

川名氏は、特に②のように時間が経過したケースでのステロイドの有効性については「まだ十分検討されていないのではないか」とし、ステロイドの可能性にいてさらに検討を進める必要があると指摘した。

「ステロイド使用のタイミングについてどう判断すればいいか」とのフロアからの質問に対し川名氏は「非常に熱が高く肺の画像所見が急速に悪くなる呼吸不全のようなケースでは、サイトカインストームが強く出ている可能性があるので、免疫をコントロールする意味でステロイドの出番があると思う。また、少し長期化し肺の線維化が進みそうな場合にもステロイドの出番があると思うが、まだはっきりしたデータがなく、今後の検討が必要」との見解を示した。

   

「私はワクチンに期待していない」

一方、松山氏はウイルス学の専門家としてワクチンによるCOVID-19予防の可能性に言及。

新型コロナウイルスは血中にほとんど入らず肺胞の上皮や気道で増えるウイルスで、こうした呼吸器ウイルスに対し終生免疫を獲得できるワクチンはこれまでつくられたことがない─として、松山氏は呼吸器ウイルスのワクチン開発の難しさを強調。「私はワクチンにあまり期待していない」と述べた。

第3相試験まで開発が進められているアストラゼネカのアデノウイルスベクターワクチンやファイザーのmRNAワクチンについても「それぞれ副反応の懸念があり、安心してどんどん進めていいようなものではなく、よく監視しないといけない」と指摘。「新型コロナワクチンの候補で安全性に懸念のないものは今のところない。ワクチンでADE(抗体依存性感染増強)が起こらないことを見極める必要がある」と呼びかけた。

ただ、呼吸器ウイルスのワクチンでは終生免疫の獲得は難しいものの、インフルエンザワクチンのように「重症化を防ぐ観点から良いワクチンはきっとできると思う」との見通しも示した。

松山氏はこのほか、COVID-19治療薬候補のうち自ら研究に携わっている吸入ステロイド製剤シクレソニドの可能性について説明。「シクレソニドの良いところは、吸入するため、肺胞や気道にあるウイルスに直接作用し、炎症を直接抑えることができる薬であること」とし、効果が証明されることに期待を示した。

「有事でこそRCTが必要」

治療薬の問題については21日のシンポで国立国際医療研究センター国際感染症研究センター長の大曲貴夫氏も取り上げ、中等症(肺炎あり)・重症例に対し抗ウイルス薬では「RCT(ランダム化比較試験)で一定の効果が認められているレムデシビル」、免疫調整薬では「英国の試験で死亡率低下が示されたデキサメタゾン」がCOVID-19治療薬として使用可能となっているとしながら、次の課題として軽症例(肺炎なし)を重症化させないための治療戦略を挙げ、「抗ウイルス薬がどう関与するか、何か効果を示しうるかが今後の議論のポイントになってくる」との見方を示した。

大曲氏は、レムデシビルの国際共同治験に参加する中で米国の「スピード感と規模感と体制に圧倒された」とし、「有事でこそRCTが必要」とする米国の研究者の姿勢に「私たちは大いに学ぶ必要がある」と指摘。「有事でも速やかに研究開発を遂行できる体制の構築が喫緊の課題」と強調した。

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