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【識者の眼】「高額薬価で既存ルールに限界、新技術の価格設定に標準的原価モデルの検討を」坂巻弘之

No.5023 (2020年08月01日発行) P.62

坂巻弘之 (神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科教授)

登録日: 2020-07-14

最終更新日: 2020-07-14

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新しい作用メカニズムを有するバイオ医薬品や再生医療等製品、特定の遺伝子あるいはタンパク質に対して作用する核酸医薬品など、新しい医療技術については、研究や製造に対する設備投資、さらには製造コストもかかることから、原価計算方式では高額薬価となることが多い。特に海外開発製品では、原価の内訳が不明確ながらも、移転価格をベースに算定されて高額となることもある。さらに既存の高額製品を比較対照として類似薬効比較方式で算定され1億円を超える遺伝子治療薬が登場したこともあって、既存の薬価算定ルールでは、新技術の価格算定に限界があることは明らかである。

欧米でも、高額製品について問題となっており、価格設定のあり方は様々な議論がなされている。欧米アフリカなど30カ国の健康保険組織を傘下に置く国際組織であるAIMが2019年4月に興味深い提言を行っている。提言は10項目からなるが、その中で、医薬品の「公正な価格」の推計のための計算モデル構築を提案している。一言で説明すると、許容上限の標準的な研究開発費を定め、これを各国の予想患者数に配賦するという考え方である。具体的にはグローバルでの研究開発費として2憶5000万ユーロを認めるとしている1)

標準的なコストの見積もりは、製造原価がブラックボックスになりがちな新技術において重要と考えられる。抗体医薬品は2020年5月までに74品目が承認されているが、高額なものが多い。これも最初の抗体医薬品が原価計算方式で薬価算定され、それが標準になっていることが理由の一つと考えられる。抗体医薬品では製造の技術革新も進んでおり、製造原価はかなり下がっているとされ、新たなコストモデルも議論されている2)

再生医療等製品をはじめとする新技術については、既存治療と比較した医療上の価値、原価を比較し、原価が安くても医療上の価値がある場合は、それを適切に評価した価格設定とすることは必要である。一方、企業提示の原価が著しく高額であるが、その内訳が不明確な場合には、標準的な原価モデルによる価格算定を検討してはどうだろうか。

【文献】

1)The International Association of Mutual Benefit Societies(AIM):Proposes to Establish a European Drug Pricing Model for Fair and Transparent Prices for Accessible Pharmaceutical Innovations.
[https://www.aim-mutual.org/wp-content/uploads/2019/12/AIMs-proposal-for-fair-and-transparent-prices-for-pharmaceuticals.pdf]

2)Günter Jagschies:Management of Process Economy-Case Study. in “Biopharmaceutical Processing:Development, Design, and Implementation of Manufacturing Processe”(Günter Jagschies, et al. ed.). Elsevier, 2018, p1191-223.

坂巻弘之(神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科教授)[薬価]

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