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【識者の眼】「今、総合診療医に求められていること」竹村洋典

No.5021 (2020年07月18日発行) P.60

竹村洋典 (東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科全人的医療開発学講座総合診療医学分野教授)

登録日: 2020-07-01

最終更新日: 2020-07-01

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残念ながら、今の日本の医師に「総合診療医ってどんな医師?」と聞かれて答えられる医師は多くない。いわんや一般市民に同じ質問をしたら、その正答率はほぼ皆無かも。専門医に求められているのは、他の専門医と違う確固としたアイデンティティー(I)、そして誰もが知っているポピュラリティー(P)である。総合診療のIはこれまでも書いたようにしっかりしている。しかしPにはかなり問題がある。

今、日本の「総合診療医」に求められているのは「質」ではなく、医療者、その他の市民に理解できるだけの「量」。地域の人々一人一人に総合診療医がいる見通しがついたらば、「質」を考えればよい。実際、1970年代後半、米国に総合診療医(family practitionerのちのfamily physician)が誕生した時は、当時地域医療を支えていた、しかし十分な研修を受けていない総合医(general practitioner)を多数、経過措置によって総合診療医に変換した。そして生涯教育を充実させ、専門医の更新制度で質を担保し、多くの総合診療医を保有するに至った。総合診療医のポピュラリティーが格段に向上した。

プライマリ・ケアを担当する医師を増やすことの利点は、第一に地域住民の健康、そして安心・幸福が守られること。また、有限な医療資源を有効活用するために、機能するプライマリ・ケア医が必要である。私が総合診療医になったのは、行政的な有用性を勘案したわけではないが。現代日本において、行政は総合診療に非常に興味を持っている。ちなみにそれが医師の収入減を意味しているわけではない。英国で総合診療医(general practitioner:GP)の制度が確立し、医療経済システムの変更をした際、英国のGPの収入は1.2倍に増えた。

では、日本において総合診療医をいかにして増加させるか。米国などと同じく、経過措置はあると思う、少なくとも初期においては。総合診療専門研修プログラムの質を大きく変えなければ、将来の総合診療医の質低下は起きない。専門医更新のための生涯教育で質担保もできる。また地域のかかりつけ医の方が、若い総合診療医よりもずっと効果的な場合も少なくない。同じく地域医療に貢献している内科専門医とも協働活動が必要かもしれない。現在、日本専門医機構では総合診療領域と内科領域のダブルボードを模索している。

5年、10年したら、地域住民一人一人に機能的で温かい総合診療医がいることを心から期待している。

竹村洋典(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科全人的医療開発学講座総合診療医学分野教授)[総合診療③]

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