株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

【識者の眼】「新型コロナウイルスの猛威に思う─感染症対策の司令塔の確立を」垣添忠生

No.5017 (2020年06月20日発行) P.58

垣添忠生 (日本対がん協会会長)

登録日: 2020-06-03

最終更新日: 2020-06-03

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

新型コロナウイルスが猛威を振るっている。昨年12月31日に中国武漢で未知の感染症が公表されてから、僅か5カ月で世界で620万人が感染し、37万人以上が死亡した(6月2日時点)。経済的影響も甚大である。

このウイルスに対処する各国の事情を見てみたい。米国では「米疾病対策センター(CDC)」が感染症の拡大を防ぐ政策を立案し実行する。CDCは感染症だけでなく、DVや児童虐待、自殺、麻薬対策などを広汎に担当している。1万4000人以上の職員を抱え、年間予算7000億円規模の巨大組織である。しかし、今回のコロナウイルス封じ込めには初期対応が遅れた。

中国の感染症対策の中心は「中国疾病対策予防センター(CCDC)」だ。疫学部門の人員強化に努め、膨大な予算を投入している。今回は武漢市の都市封鎖で強力に抑え込んだ。

台湾は、2003年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)に十分に対応できなかった反省から「国家衛生指揮センター(NHCC)」を設立した。今回のコロナに対しても、いち早く手を打って封じ込めに成功した。韓国もシンガポールも同様に感染制御に成功した。欧州の状況は悲惨だった。

一方、わが国の感染症対策の司令塔は「国立感染症研究所」だろうが、人手も予算も圧倒的に弱体である。感染症対策に優れた実績を持つ国内大学とタッグを組んで、強力な組織を作り、予算や定員が安易に削減されない仕組みが必要だ。加えて厚生労働省の結核感染症課も人手、予算、権限とも「ないない尽くし」である。

人類はこれからも、ペスト、SARS、中東呼吸器症候群(MERS)、エイズ、エボラ出血熱等で経験した、未知の人獣共通感染症に向き合わなければならない。わが国に感染症対策に特化した強力な司令塔を作って、今回のような緊急事態を受けて立つ強力な組織が絶対に必要だと思う。しばしば、日本にも米国CDCのような強力な組織が必要だ、とする議論があるが、米国CDCのような多面的な健康対策を実践する巨大な組織は日本になじまないのではないか。

緊急事態宣言が解除されても、第二波、三波の可能性もあるし、冬に向かえばインフルエンザとのダブルパンチも生じかねない。感染症対策の司令塔を確立し、どんな新たな感染症が発生しても即応できる法体系を整備しておくべきと思う。

垣添忠生(日本対がん協会会長)[新型コロナウイルス感染症]

ご意見・ご感想はこちらより

関連記事・論文

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top