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日本における診断学教育の活動の実際─診断戦略開発カンファレンス,reflection,そして最近接発達領域[プライマリ・ケアの理論と実践(63)]

No.5014 (2020年05月30日発行) P.10

水澤 桂 (獨協医科大学病院総合診療科)

志水太郎 (獨協医科大学総合診療科診療部長)

登録日: 2020-05-28

最終更新日: 2020-05-27

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SUMMARY
スタッフクラスの医師の修練には行為後の省察こそが重要である。当科では診断困難事例であったケースの議論をし,「明日から実践できる原則論(診断戦略)を開発する」という思考訓練を行っている。

KEYWORD
reflection(省察)

(1)reflection in action(行為中の省察):行動の中で省察する対処法。

(2)reflection on action(行為に基づく省察):事後の振り返りであり,次回の同様な局面に活かす。

(3)reflection for action(行為のための省察):振り返りから新たな理論・実践を導き出す。


水澤 桂(獨協医科大学病院総合診療科)

上越総合病院・糸魚川総合病院で初期研修と後期研修を修了。2019年より現職。2020年4月現在医師8年目。日本内科学会・認定内科医。日本プライマリ・ケア連合学会・家庭医療専門医。

POLICY・座右の銘
融通無碍


1 診断戦略開発カンファレンスとは

獨協医科大学病院総合診療科では後期研修終了後の若手スタッフクラスを対象に,New England Journal of MedicineのClinical Problem SolvingやCase Records of the Massachusetts General Hospitalを主な題材とし,症例カンファレンスを毎朝行うことで,臨床推論の訓練を行っている。

流れの例としては,症例提示を段階的に行い,得られたところまでの情報を基にしてsystem 1から導かれた鑑別診断を挙げる。system 1はこれまでの経験に基づく無意識のひらめきによる直観的な診断(例:中年男性の急性発症の右側腹部痛→尿路結石)のことを指す。

ただし同様の病歴で異なる最終診断となりうる疾患はいくつかあり,参加者はsystem 1が作動した時点でpivot&cluster strategy(PCS)を展開させることが多い。PCSとは直観的診断を軸(pivot)として,その疾患に近い鑑別疾患群(cluster)を同時に想起して見逃しを防ぐ診断戦略*1である(例:尿路結石→腎疾患,大動脈瘤・解離,急性膵炎)。

その他,情報がわかったところまでの時点から時間を早回しするとどのようなことが起こりうるかを予想するfast-forward戦略を用いて,重症化を予測したり(例:尿路結石→水腎症・結石性腎盂腎炎),主訴の拡大を考慮したり(単関節炎→多関節炎)しながら,鑑別診断の網を広げる思考訓練をケースにより使用することもある。

vertical tracingを使うことで,その疾患の根本原因を“垂直”方向に掘り下げて探して病態の根本原因を探ること(例:尿路結石→加齢,食生活,高尿酸血症,慢性感染,薬剤性,尿路うっ滞,尿路奇形,代謝性)も実際の現場では必要であり,ケースを用いてその疑似体験を行う。

このように,system 1から転じて,system 2を駆使して分析的に多くの鑑別疾患を引き出し,行うべき身体所見,検査をチームで検討し,メンバーで考慮した最終診断を提出し,実際のケースでの最終診断を開示し確認する。

カンファレンス後半では,最終診断までの思考プロセスを検討し,臨床推論との比較を通じて,そのときに行った診断の思考過程が迅速かつ有効だった場合はそれでよいとし,診断をエラーした場合や,思わぬ思考の迂回をしてしまった場合は,予測外の診断の事例に対し次に同じエラーを繰り返さないための,「明日から実践できる原則論(診断戦略)を開発する」という思考訓練を行っている。

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