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【識者の眼】「新型コロナウイルス感染症で浮き彫りになったSDH後編:コロナ関連病を防ごう」西村真紀

No.5013 (2020年05月23日発行) P.62

西村真紀 (川崎セツルメント診療所所長)

登録日: 2020-05-08

最終更新日: 2020-05-08

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第6回は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に伴うSDH(social determinants of health、健康の社会的決定要因)についての後編です。今回は人々の生活と健康に目を向けてみます。

COVID-19病棟とICUの確保や不幸にして起きた院内感染により、病棟閉鎖、外来閉鎖、救急車受け入れ中止など医療崩壊がじわじわと進む中で、国民の健康が脅かされています。救急車のたらい回しも起きています。発熱や体調不良の高齢者の入院先探しにはとても苦労します。コロナ不安やうつ病の患者の増加、手術の延期、内視鏡診断の遅れ、健診ができないなどの問題が生じています。また一般病棟や緩和ケア病棟から在宅医療への移行を余儀なくされる例もあります。癌専門病院が他病院から癌患者の受け入れを拡大したように、各医療機関でできる医療をシェアする取り組みが望まれます。

生活面では収入減少、失業、ネットカフェを追い出され住む場所を失うなど貧富の格差が広がりました。経済的理由で受診できない、薬の節約のため服薬しない患者が実際に出始めています。休校の影響では、給食がない、ネット環境がないなど子供の命と学ぶ権利が侵害されています。「Stay home」でDVや、ギャンブル依存、アルコール依存が増えています。今後コロナ関連病や関連死が避けられないのではないかと考えられますが、今こそ私たちはそれを防止する医療活動を始めなければなりません。電話やオンライン受診が進む中、そこから取り残された人々にこそ、電話や訪問で健康チェックをすべきです。全国のクリニックの皆様にはぜひ中断患者さんを把握して、患者さんとそのご家族の健康状態と生活状況を聞いてほしいと思います。

福祉分野でもCOVID-19の影響が出ています。介護者が在宅勤務になる、仕事がなく収入が減る、などの影響で被介護者が介護施設に行けなくなったりサービスを減らされたりしています。またコロナ予防対策からサービス提供を止めた施設もあります。サービスが減ると、高齢者はフレイルが進行し転倒や誤嚥などの危険が懸念されます。福祉関係者は、デイサービスや施設の閉鎖を食い止めるためギリギリのところで踏ん張っています。

政府も私たちも、我慢や頑張りのスローガンを挙げるにとどまらず、現場での具体的対策のデータを集積して、この機会に貧困や医療福祉の人手不足などの潜在的な問題も掘り起こし、ポストコロナ時代の医療福祉の質改善につなげることが重要だと思います。

西村真紀(川崎セツルメント診療所所長)[健康格差][SDH⑥][新型コロナウイルス感染症

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