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未分化な問題と診断学─複数の未来を見据えたケア[プライマリ・ケアの理論と実践(60)]

No.5010 (2020年05月02日発行) P.12

高瀬啓至 (獨協医科大学病院総合診療科)

登録日: 2020-04-30

最終更新日: 2020-04-28

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SUMMARY
医学の進歩にもかかわらず,いかなる名医でも確定診断が困難な状況は存在する。臨床医には,その時点で得られる診断の手がかりから,患者の複数の未来を予測しつつ,それらを包括した最善のケアの提供が求められる。

KEYWORD
医学的に説明のつかない症状
統一された定義はないが,持続的・断続的に3~6カ月以上の長期にわたり,詳細な問診・身体診察と一般的検査によって器質的疾患を指摘しえない症状。未分化な身体疾患,精神疾患,現代医学で未解明の病態が混在する。

高瀬啓至(獨協医科大学病院総合診療科)

PROFILE
2009年東北大学医学部卒。初期研修終了後,仙台市立病院救急科で救急・集中治療・総合診療に広く従事。2017年より,獨協医科大学病院総合診療科で臨床・教育・研究に従事しながら,診断学を学ぶ。

POLICY・座右の銘
世界は「心」から成る

1 未分化な問題と診断エラー

診断エラー,つまり「診断の誤り・見逃し・遅れ」は,特定臓器の専門外来よりも,プライマリ・ケアの現場や救急外来で多いことがわかっている。

この事実が示すものは,それぞれの現場の医療従事者の単純な能力差ではない。後者においては,「疾患そのもの」および「疾患精査のプロセス」のいずれか,もしくは双方が比較的未分化であるために,必然的に診断の精度が下がると考えるのが自然だろう。

たとえ「初期診断」や「暫定診断」であったとしても,一度正確ではない診断がなされると,診断エラーが生じやすくなる。これは,既存の診断の変更に大なり小なり認知負荷が必要なためで,その心理は,早期閉鎖,ラベリング,自信過剰バイアスなど,様々な認知バイアスとして知られている。

だからと言って容易に診断を保留にすればよいというわけではない。未分化な問題で診断を保留するデメリットにも配慮は必要である。たとえば,確定診断を待つ間のお互いの不安,除外診断のための検査の身体的・経済的負担などが挙げられる。最悪,診断を保留している間に治療可能な時期を逸してしまえば,それも診断エラーである。つまり,未分化な問題では,診断は早くても遅くてもエラーとなりうる。適時の適切な診断・治療には,臓器を横断した知識と,症候学・診断学への深い理解と実践力が求められる。

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