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【識者の眼】「個別指導と経営上のリスク」川﨑 翔

No.5010 (2020年05月02日発行) P.66

川﨑 翔 (よつば総合法律事務所東京事務所所長・弁護士)

登録日: 2020-05-04

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医療機関の顧問弁護士をしていてご相談が多いのが、いわゆる「個別指導」です。ここでいう「個別指導」はご案内のとおり、厚生局や都道府県が保険医療機関等に対し、保険診療や診療報酬の請求に関して行う指導を指します。2018年度の個別指導は全国で4724件(医科・歯科・薬局)実施され、指導による返還金は約32億8000万円に上ります。

診療報酬の自主返還を求められる原因のほとんどは、カルテ記載の不備です。例えば、特定疾患療養管理料であれば「治療計画、指導内容の要点等の必要記載事項を診療録に記載していない」などとして、返還を求められることになります。【カルテに記載がないこと】が、すなわち【治療計画や指導を行っていないこと】を意味するわけではないのですが、「カルテの記載が必要だと知らなかった」という反論は受け入れてもらえません。

自主返還を行う場合、指摘を受けた患者だけではなく、すべての患者1年分の診療報酬を返還する必要があります。金額もさることながら、該当する患者と診療月を抽出するだけでも膨大な作業量です。返還金と作業を行う事務員さんの残業代を考えると頭が痛くなります(個別指導に帯同した経験上、自主返還を求められなかったというケースは複数回ありますが、決して多くありません)。

一方で、医学部において、保険診療や診療報酬請求のルールを体系的に教わる機会は、ほぼないでしょう。そのため、診療報酬の請求について、「先輩から教わった」ですとか、「勤務先のクリニックがやっていた」というような自己流の解釈が修正されずに続けられていることが多いように感じます。実際、顧問先クリニックや知り合いの先生方との雑談でも「それは個別指導で指摘される可能性があるので改めましょう」とお話しすることが、多々あります。

怖い話ばかりになってしまいましたが、基本に立ち返ってカルテの記載を見直してみるという機会を持つことが重要です。当然ですが、カルテは個別指導のために作成しているものではありません。文字通り診療の記録です。カルテに十分な記載があれば、仮に診療内容についてクレームをつけられても、記載に基づいて反論することが可能です。十分なカルテの記載が医師とクリニックを守ることにつながるのです。

川﨑 翔(よつば総合法律事務所東京事務所所長・弁護士)[クリニック経営と法務]

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