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地域医療存続に貢献でき、経営的にもメリットがある「承継開業」のススメ[シリーズ・地域医療の未来を創る]

No.5009 (2020年04月25日発行) P.12

登録日: 2020-04-23

最終更新日: 2020-04-23

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医師不足が深刻化する地方では、開業医の高齢化も進み、クリニックの後継者不在がそのまま地域医療の崩壊につながりかねないケースが出始めている。全国で医療機関の経営・運営に関するコンサルティングを展開する株式会社メディヴァ(大石佳能子社長)は、地域医療存続のためには医業承継問題の解決が不可欠と判断し、独自の医業承継・M&A支援の取り組みを進めている。地方でクリニックの第三者承継がなかなか進まない原因はどこにあるのか。今年3月に『医業承継の教科書』(日本医事新報社)を上梓したメディヴァの小松大介コンサルティング事業部長に話を聞いた。

 

地方で医師不足が深刻化する要因の1つに、新規開業の都市部集中、地方での開業件数の減少がある。この状況を厚生労働省も重く見て、「外来医師多数区域」の設定などにより開業医の偏在是正を進めようとしているが、小松さんは、新規開業が都市部に集中する背景に「情報の不足」があると考える。

「『医業承継の教科書』にも書きましたが、都市部で新規開業するよりも、医療ニーズのある地方で承継開業したほうが経営的にもメリットがあるのに、その情報があまり知られていません。首都圏などは生活費もかかるし、諸々のコスト、人件費、土地代も高い。そういう厳しい条件の中で市場も逼迫しているので、新規開業した先生は、数年間は勤務医時代の収入に届かないケースが多い。ところが、ニーズのある地方で承継開業した先生は、最初から一定数の患者さんが確保されているので、入り口の時点から基本の収入があり、よほどの間違いをしない限り事業を維持できます。クリニックの開業を考えている先生は、承継という選択肢を必ず一度は検討してほしいと思います」

地方では住民の高齢化に伴い在宅医療のニーズも増えているが、地域医療を守ってきた開業医自身も高齢化で機動的な対応がしづらくなっている。後継者不在で承継ができないまま、その開業医に体力の限界が訪れると、地域医療は一気に危機に瀕することになる。

しかし、開業を考える都市部の勤務医が地方に移り住み、第三者承継(M&A)の形でクリニックを継げば、地域医療は存続の危機を脱することができる。

「経営上のメリットもありますが、困っている患者さんのニーズに応え、住民に感謝される本来の医療を実践できるところが、承継開業の最大のメリットです」

「3泊4日」開業という選択肢

都市部の医師が縁もゆかりもない地域に移り住み承継開業するにはいくつかのハードルがある。大きいのは「家族」の問題だ。「都市部で暮らす子どもや妻を置いていくわけにはいかない」という理由で地方での開業に踏み切れないケースは多いという。そんな医師に対し小松さんが提案するのが、地方で開業しながら週末は家族と過ごす「医療版デュアルライフ」だ。

「例えば週に4日、月〜木は承継したクリニックで働き、週末は東京にある自宅で過ごす。自分が不在の間は非常勤の医師を雇うなどして地域医療に対応する。計算上は、実力のある先生であれば、3泊4日分の家賃や交通費等を十分賄えるくらいの収益を出すことは可能です。日本ではまだこういう事例は多くありませんが、米国などでは自宅と仕事場の間を飛行機で行ったり来たりする生活は当たり前になっています」

「2人のアドバイザー」と一緒に交渉

こうした開業スタイルを実現するには従来にない柔軟な発想が求められる。では、一方の譲渡する側の地方の医師は、スムーズに承継を進めるためにどのようなタイミングで準備を始めればいいのだろうか。

「承継を考え始めてから実現するまでに3年程度はかかるので、60代半ば頃に『自分が70歳になった時に地域の医療資源はどうなっているか』を考えて承継の準備を始め、70歳までに完了させて、75歳くらいまで非常勤の医師として受け持ちの患者さんのフォローをするというのが理想的なパターンです。実際にはなかなかそううまくはいかないのですが」(小松さん)

第三者承継の場合、良いアドバイザーと出会えるかが成否のカギとなる。小松さんは承継を考える医師に「2人のアドバイザー」を持つことを勧めている。

「1人は、間違いなく信頼できる人。長年相談してきた税理士さんでも、奥様でも、友人でもいいのですが、『この人と決めたのなら間違えても仕方がない』と思えるような、身近な信頼できるアドバイザーが1人は必要です。もう1人は、知識があればその人が兼ねてもいいのですが、M&Aや事業承継の経験・ノウハウがある専門家。2人のアドバイザーを交えて常に三者で承継の話を進めていくことをお勧めしています」

医業承継にはメリットとデメリットがあり、一連のプロセスには専門知識がないと容易には避けられない落とし穴もある。しかし、アドバイザーとともに話を進め、次世代の医師にしっかり引き継ぐことができれば、地域医療の存続・発展に大きく貢献することができる。後継者不在で閉院を考えている先生も、地域医療を守るために、もう一度第三者承継の道を検討してみてはいかがだろうか。


『医業承継の教科書―親族間承継・M&Aの手法と事例』日本医事新報社 4,500円+税

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