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【識者の眼】「地味に困るお金の汚染」矢吹 拓

No.5004 (2020年03月21日発行) P.59

矢吹 拓 (国立病院機構栃木医療センター内科医長)

登録日: 2020-03-11

最終更新日: 2020-03-11

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世の中はまさに新型コロナウイルス一色。緊迫した場面も多いなか大変恐縮ではあるが、現場ではささいなことで地味に困ることがある。例えば、新型コロナウイルス感染患者さんの“お金”をどうするか?というのが今回のテーマ。

皆さんは、紙幣や硬貨の表面が細菌や微生物によって汚染されているという事実をご存知だろうか。昨年、イグノーベル賞を受賞した研究1)では、紙幣の細菌および紙幣手渡しによる細菌伝播を調べたところ、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)・バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)・基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生菌といった高度耐性菌が多数検出されたのだ。蛇足だが最も汚染されていたのはルーマニアのレウ紙幣。上記耐性菌が全て検出されただけでなく、1日乾燥させた後、なおVREが検出されていた…。

新型コロナウイルスも、接触感染が話題になっている。先日シンガポールから発表された環境汚染の報告2)でも患者周囲の環境面には広範にウイルスが存在することが明らかになった。当然紙幣や硬貨の表面にも存在すると考えるのが妥当だろう。巷では、お札を熱湯煮沸したというニュースまで流れている。もちろん、貨幣の汚染によって実際に新型コロナウイルスが感染するかは分からないが、理論的にはあり得るだろう。現場では立て替え払いなどを行っているところも少なくない。あとはキャッシュレス時代到来に期待だろうか。

そもそも「お金は汚いもの」という認識が重要だ。そういえば小さい頃、硬貨を使って遊んだ後に、そのままおやつを食べようとしたら親から注意されたことがあった。母ちゃん、ありがとう。何より平時からの接触感染予防、手指衛生が最も重要だ。「金は天下の回りもの」。お金は誰がどこでどのように使ったのかは全く分からないのだ。新型コロナウイルスというフィルターを通して、こんなことも見えてくる。

【文献】

1) Gedik H, et al:Antimicrob Resist Infect Control. 2013;2(1):22. 

  [https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3765964/]

2) Ong SWX, et al:JAMA. 2020 Mar 4.

  [https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2762692]

矢吹 拓(国立病院機構栃木医療センター内科医長)[感染症]新型コロナウイルス感染症] 

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