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【識者の眼】「月の往復から50年に想うリーダーシップの重要性」垣添忠生

No.5000 (2020年02月22日発行) P.67

垣添忠生 (日本対がん協会会長)

登録日: 2020-02-19

最終更新日: 2020-02-19

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「1960年代のうちに人間を月に着陸させて、無事に帰還させよう」。1961年5月、米国大統領ジョン・F・ケネディが議会で国民に呼びかけた。

ガガーリンによる宇宙飛行成功など、ソ連の宇宙開発に劣勢だった米国を奮い立たせる上で、この演説は鮮烈だった。国民に進むべき途を示し、揺るぎなく突き進む姿はリーダーシップそのものだろう。ケネディの呼びかけに対して、米航空宇宙局(NASA)の発足、ドイツ出身のロケット博士フォン・ブラウンのNASA移籍など、人間を月に送るロケットとその周辺技術の開発が着々と進められた。

1969年1月、ニール・アームストロング、バズ・オルドリン、マイク・コリンズの3人がアポロ11号の乗組員に決定した。常に冷静沈着なアームストロングが船長に指名された。この間の訓練は凄まじかった。余談だが、アームストロングは訓練中に当時2歳の娘カレンを脳腫瘍で失っている。宇宙飛行の開発段階では、不幸な事故も起きたし、危険な任務に挑む飛行士と家族との軋轢もあった。 

それらを全て乗り越えて、1969年7月16日、アポロ11号は38万㎞かなたの月に向かった。3日後、月着陸船イーグルから月面に降り立ったアームストロングは、「これは人間にとって小さな一歩だが、人類にとっては大きな跳躍だ」という有名な言葉を発した。

月面で跳躍する宇宙飛行士の姿を眺めて、私はこんな事態にも現れる人間の稚気を感じた。約2時間半後、月の石21㎏を持って無事に地球に帰還した。この様子は世界40カ国に同時中継され、6億人が視聴したという。

2016年1月、オバマ大統領が一般教書演説で「がんムーンショット計画」を宣言した。これはケネディ演説のがんバージョンといえるだろう。その後わが国でも「がんゲノム医療」が実装されつつあるが、大きな挑戦に向けての小さな一歩は踏み出した。 

人々に大きな目標を指し示すリーダーシップの重要性を想いながら夜空に月を見上げると、50年前の人間の達成に私は深い感慨を覚えるのだった。

垣添忠生(日本対がん協会会長)[がんゲノム医療][アポロ11号]

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