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【識者の眼】「真の生活圏域を医療圏として捉えるべき」小林利彦

No.4995 (2020年01月18日発行) P.58

小林利彦 (浜松医科大学医学部附属病院医療福祉支援センター特任教授)

登録日: 2020-01-16

最終更新日: 2020-01-14

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地域医療や地域包括ケアという用語で使われる「地域」の定義は必ずしも明確ではない。Wikipediaによると「地形が似通っている、同じ性質をもっているなどの理由からひとまとめにされる土地のこと」と記述があるように、その構成要素として地理的背景が大きく関係するのは間違いないが、国が定める「地方生活圏」や「二次医療圏」などは行政区画の境界線を基本にしたものが多く、地域住民の生活圏域とは必ずしも一致していない。実際、地域医療構想の実現に向けて再検証が必要とされた「20分以内の移動距離にある医療機関」は、あくまで構想区域(二次医療圏)内での分析結果によるものであり、隣接する圏域への受診という現実的な行動は考慮されていない。

医療圏を「生活圏域」として捉えた場合、その範囲(面積)を決定する要因には、地理的背景のほか地域の人口密度が大きく影響する。国土交通省の資料によれば、救命救急センターのような高度急性期医療を担う医療機関が経営的に成り立つ人口は10〜20万人とされているが、その圏域が住民にとって現実的な生活圏となっているかは大きな問題である。実際、道路を含む交通網等の整備状況にもよるが、車での移動時間が30〜60分程度というのが現実的な医療圏と考える。ただし、疾患別の治療成績等を考慮すれば、対象疾患により妥当な移動時間(医療圏域)は変化するものと思われる。例えば、1時間程度の間にカテーテル治療が行われることで予後に影響のある脳梗塞や狭心症などでは、30分以内程度で受診が可能な地理的医療環境が期待される。その一方で、通常の「がん」疾患であれば、多くの地域で、より遠方の専門医療機関への受診がなされているものと考える。

昨今、地域の医療機関等の再編統合が話題となり、地域レベルでの議論が求められてはいるが、それは決して既存の行政単位で語られる問題ではなく、真の生活圏域を医療圏として捉え、人口規模と実際の移動時間、そして疾患別の医療圏を視野に入れた検討がなされるべきである。

小林利彦(浜松医科大学医学部附属病院医療福祉支援センター特任教授)[地域医療構想]

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