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遠い国と日本[炉辺閑話]

No.4993 (2020年01月04日発行) P.59

新田國夫 (日本在宅ケアアライアンス議長/新田クリニック院長)

登録日: 2020-01-04

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昨夏ブータンに行った。元首相のテインレイさんとお会いした。彼はGNH(国民総幸福度)を進めた人である。20世紀の社会は規制緩和、民営化、そして自由貿易を推し進めたのはGDP(国民総生産)を指標にして成長や物質的な繁栄と豊かさを求め、あらゆる犠牲を払って追求する世界である。その結果、人類史上最大の財と富が生み出された。しかしながら、こうした富は幻想ではないか、この繁栄の陰で貧困に苦しむ人、弱者の人数は最大になる世界。私たちは問わねばならない、物質的な豊かさは本当に価値あるものか、GDPを上げることが人間的幸福を求め、持続可能か、哲学者のような顔貌から語られる言葉に吸い込まれた。医療もまた同様である感じをしながら、彼の話に同意を得た。

日本は超高齢時代を迎えている中で、GDPを中心軸とした世界を築くのか、あるいはGNHを基準軸にするのかの議論が改めて問われる。私たちの暮らす日本は、ブータンより明らかに数十年先の便利さ、簡便、効率的、さらに先端の医療が誰でも受けられる社会にいることは間違いない。先端医療の発達は、生命という評価軸の中で治療による治癒、救命、延命を営みとしてきたが、今大転換期にきていることを改めて考えさせられた。

しかしながら、評価基軸を変えて考えてみたとき、どのような風景が思い描かれるであろう。生活の充足、人生の満足、そして生きがい。生命を中心に置きながら価値変換したとき、超高齢時代に先端医療が果たす役割の意味を再考することになる。テインレイさんは、幸せこそが人生の目的であると自ら知ることにより、人間は明確な精神を持つことができると言った。医学の目的もまた同様であり、生活、人生、生きがいを基軸に考えることは、人は幸せを求めることが第一義であるからである。GDPからみえる幸せは経済的豊かさである。GDP、先端医療を否定するものではない、成功への過程において生じてきた課題を解決する手段を持つことであり、GDP市場主義では幸せになれないと同時に、先端医療のみでも幸せになれない、そこに在宅医療の神髄がある。

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