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教育は社会の根幹[炉辺閑話]

No.4993 (2020年01月04日発行) P.58

高田英臣 (東海大学体育学部生涯スポーツ学科教授)

登録日: 2020-01-04

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還暦を過ぎたとはいえ、まだ医療の講義をしている現役の大学教授である。

幸か不幸か若く見えるため、電車で席を譲ってもらったことはない。座りたいなあ~という顔をしても誰も察してくれない。辺りを見ると、若い人がシルバーシートに平然と座っている。前でお年寄りが立っていても、だ。なぜ、こんなに厚かましいのだろう、なんたる非常識!どこで教育を間違ったのかと悩んでしまう。電車の中で小学生10人くらいを引率している先生がいた。席が空いたら次々に子どもたちを座らせている。大人たちが立っているにもかかわらず、である。地域の地下鉄では小学生のポスターが車内に貼ってあり、「お年寄りに席を譲ろう」とか、「座ってね」などと標語が添えてある。どっちの教育をしているのだろうか?「席を譲ろう」は建て前で、学童を立たせて怪我でもされたら父兄からのクレームに困る、というのが本音か?

これまで経験してきた医学の世界でも、本音と建て前がまかり通っている。本音を言わず我慢することが、大人の対応などと言われ、うやむやにされてきた。

私が入局した頃は、研修医は24時間勤務、先輩医師からの技術を盗め!だった。人を育てる、教育をする義務の意識に乏しかったようである。多くの時間を雑用に費やすこともあり「若い者には楽はさせない」などと、当然のように言われた。教育は合理的に組織的に、そして心が伴うことが大切だ。現代の若者に無理強いや滅私奉公が通用するわけがない。

パワハラ、イジメの横行は古い医学界だけでなく、職場や学校では当然のように、また今日では教育・スポーツ界でさえも次々と明らかにされ、毎日のように新聞紙上をにぎわせている。

人を愛し思いやる気持ちは、その人が受けてきた教育を源とするところが大きいのではないだろうか。教育改革が問われて久しいが、実際は問題が表面化しないように取り繕っているだけで、それは見透かされているのではないだろうか。

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