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家庭医の卓越性[炉辺閑話]

No.4993 (2020年01月04日発行) P.34

喜瀬守人 (川崎医療生活共同組合久地診療所所長)

登録日: 2020-01-03

最終更新日: 2019-12-20

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つい先日のことであるが、私の所属する日本プライマリ・ケア連合学会の主催するセミナーで、「家庭医の卓越性」について考える、というセッションを企画した。この企画の存在自体、家庭医のある種のわかりにくさがわかりやすく示されている。私たちは日頃、たとえば心臓外科医の卓越性について議論することはあまりない。心臓外科に限らず、各専門領域の卓越性は明快だ。しかし、プライマリ・ケアにおいてこれは主要なテーマたりうるのである。ちなみに、この場合の卓越性とは、他領域の専門医に比して得意とする能力、くらいに考えてほしい。そして、家庭医とは、地域におけるプライマリ・ケアを専ら担う医師、の意味であり、私にとっては総合診療医と同じものである。

この企画では、5人の演者にそれぞれの取り組みついて話してもらった。地域の中規模病院に勤める病院家庭医は、多様かつ併存している疾患・健康問題を多職種とともに対処している。緩和ケアをspecial interestとする家庭医は、大学病院というプライマリ・ケアと最も遠い環境に身を置きながら、自らの役割を十分果たしている。フリーランスの家庭医は、全国各地の公民館を巡り、市民や行政を巻き込み巻き込まれながらいろいろな場面に参加・対話をして、人々の健康に資する手伝いをしている。腎臓内科から転身した家庭医は、対患者コミュニケーションを深めるダイアローグ(対話)という手法に着目し、実践している。医学教育学と医療人類学を修めた家庭医は、家庭医療の卓越性が医学に留まらず人類学・質的研究・現象学など様々な分野の統合で成り立っていることを示した。

読者のみなさまには、この家庭医たちが、とりとめのない集団のように見えるかもしれない。しかし、プライマリ・ケアの現場では未分化な問題が持ち込まれることが多いため、演繹的なアプローチがそぐわない場面もしばしば経験する。患者や地域の抱える課題を解決するために、必要に応じて興味や能力そのものを拡大させていく、帰納的なスタイルこそが家庭医の卓越性であるとも言える。なので、もしあなたの傍に家庭医がいるとして、その考え方や行動に不思議なものを感じたとしても、あなたとは逆のルートから同じ目標をめざしているのだろう、と考えてくだされば幸いである。

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