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口腔癌難民[炉辺閑話]

No.4993 (2020年01月04日発行) P.20

柴原孝彦 (東京歯科大学口腔がんセンターセンター長)

登録日: 2020-01-02

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元タレントが「舌癌 ステージⅣ」と診断され、主要メディアが一斉に報じたことは記憶に新しい。複数の医科・歯科かかりつけ医がいて、なぜステージⅣまで気づかなかったのか。特にゲートキーパーである歯科医院の対応は万全だったのだろうか。

この報道は、医療界だけでなく社会にも激震を与えた。その中で「とんでもなく稀な舌癌」、「末期癌のステージⅣ」の報道には些か疑問を感じる。ある大手新聞社の中堅記者の取材を受けたところ、舌癌はおろか、口腔癌に関する知識もまったくなく、歌手の舌癌、舌切除、再起のことを興味本意で聞いてくる態度には憤りも感じた。メディアの視聴者重視の伝達法はさておき、情報発信の担い手でさえ認識のない「口腔癌」の日本の現状を改めて痛感した。

今や、口腔癌はめったに遭遇しない稀な疾患ではない。日本では毎年4000人を超える方が口腔癌によって命を落としていて、罹患者数は40年前と比較すると 3倍以上に増加している。口腔癌は一朝一夕で発症することはなく、がんでない粘膜疾患を経て、5年以上の経過をたどってがん化する。これらの粘膜疾患の早期発見の役割は誰が担うのか。口腔癌の第一発見者は、一般開業歯科医院の歯科医師と歯科衛生士であり、歯科医院で救える命がある。全国に約6万8000ある歯科医院が一口腔単位を管理するプライマリケア能力を持つことが重要である。そして、何らかの異常を発見した場合に、速やかに地域基幹病院の専門医と連携できる仕組みの構築が、口腔癌の予防の重要な一歩となる。

前述の報道の際、ある頭頸外科医が「歯科医師は歯しかみない」と発言し、口内炎になれば耳鼻科への受診を促していた。しかし国民調査では、口内炎になって受診する診療科の第1位は内科(43%)、そして2位が歯科(41%)である。国民に混乱を与えぬよう学会を超えて口腔癌対策を考えるべきである。

口腔癌は、早期発見によって速やかに治療が施されれば、95%以上の治癒率を得ることができる。「口腔癌難民」を発生させないような適切な患者への対応が望まれる。

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