【緊急性から扁桃周囲膿瘍を必ず鑑別疾患に】
A群溶連菌による咽頭炎は咽頭痛患者において,成人では5~15%,小児では20~30%と,小児に多い感染症です1)2)。そのため,成人では頻度が低いことや,リウマチ熱自体も少なくなってきていることから,咽頭炎に対して不必要な抗菌薬を投与しないことを主眼にガイドラインも作成されています3)。そもそもウイルス感染症が疑われる場合には検査を行う必要性に乏しく3),A群溶連菌を想定した場合のみ,McIsaacによるModified Centor Criteriaを用いて,溶連菌に対する検査を行うか判断します4)。本症例での病歴からは咳の有無は不明ですが,Criteriaは少なくとも3点程度で,A群溶連菌による咽頭炎の可能性は35%程度と考えられます。2点以上ですので,次にストレップAテストを行い,陽性の場合のみアモキシシリンなどで治療をすることが推奨されており,本症例では,検査陰性であったために抗菌薬投与は不要であった可能性が高いと思われます。
本症例のような嚥下困難な咽頭痛の際に,緊急性の観点から必ず鑑別として挙げるべき疾患として扁桃周囲膿瘍があります。扁桃周囲膿瘍は短時間で降下性縦隔炎へと進展し重篤になることから,嚥下ができないほどの咽頭痛では,扁桃周囲膿瘍を想起し,血液培養2セットを採取の上で,アンピシリン,スルバクタムなどを投与しつつ,頭部CTで膿瘍の確認をするという一連の流れを想起しなくてはならない場合があります。
もし,膿瘍があれば耳鼻咽喉科へコンサルトを行い,速やかなドレナージが必要となるため,咽頭痛の場合には必ず扁桃周囲膿瘍がないか十分検討が必要です。なお,ASOについては感染後1週間程度から上昇し,3~4週間で上昇することが知られていますが,ASOは抗体価であり,現在の感染症を示しているとは限りません。
以上から,少なくとも,本症例は溶連菌感染による咽頭炎や,CT検査から扁桃周囲膿瘍などの重篤な細菌感染症である可能性も低いと見積もられ,ウイルス感染症などのコモンな疾患を考慮したほうがよいと考えます。
白血球分画などの情報がありませんが,上記の経過からは,何らかのウイルス感染症とそれに伴う肝機能障害などを想定する検査結果を考えます。特に伝染性単核球様症候群を想起する場合には,EBV以外に,ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus:HIV)やサイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)なども同様の症状を呈する疾患群であることから,性行為などの病歴聴取を必ず行う必要があります。
本症例の年齢で,仮にEBVに初感染する場合には,若年者と比較し重症型のEBV感染症を起こすリスクが高く,重篤な経過をたどることが多くあります。EBVの検査は陰性でしたが,HIVやCMVについても追加検査を行ってよかった症例であろうと考えます。なお,セフトリアキソンの薬剤性肝障害としては,単回投与のみの採血結果であり,一般的には考えにくいだろうと思われます。
咽頭痛と頭痛で左右がどれほど診断に重要であるかについては,わかっていないことが多く,ご質問に対する明確な返答は難しいと思います。しかしながら,咽頭痛は,前述の扁桃周囲膿瘍などでは病変によって左右が特定できますが,頭痛については,側頭動脈炎などの特殊疾患以外で,左右の訴えが意味を持つことは多くないと考えます。本症例については,それほど関連性は高くないであろうと考えます。
【文献】
1) Ebell MH, et al:JAMA. 2000;284(22):2912-8.
2) Bisno AL:Pediatrics. 1996;97(6 Pt 2):949-54.
3) Shulman ST, et al:Clin Infect Dis. 2012;55(10): e86-e102.
4) McIsaac WJ, et al:CMAJ. 1998;158(1):75-83.
【回答者】
鈴木 潤 自治医科大学附属病院感染症科