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片頭痛[私の治療]

No.4975 (2019年08月31日発行) P.38

伊藤康男 (埼玉医科大学脳神経内科・脳卒中内科講師)

荒木信夫 (埼玉医科大学脳神経内科・脳卒中内科名誉教授)

登録日: 2019-08-30

最終更新日: 2019-08-28

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  • 片頭痛の診断で重要なのは,①「頭痛が発作性であるか」,②「体動による増悪があるか」,③「頭痛時に吐き気を伴うのか」,④「光過敏・音過敏の症状を持っているか」,である。「前兆のある片頭痛」では,眼前がきらきらした光・点・線が見える,あるいは視覚消失を訴える閃輝暗点(scintillating scotoma)が特徴である。片頭痛の病態は,大脳皮質の神経細胞の過剰興奮による「神経説」や,三叉神経と頭蓋内血管との関係に注目した「三叉神経血管説」が提唱されている。
    わが国の年間有病率は8.4%で,20~40歳代の女性に多く,未成年者では高校生9.8%,中学生4.8%である1)。診断には国際頭痛分類第3版(The International Classification of Headache Disorders 3rd edition:ICHD-3)2)を用いる。片頭痛の治療は,セロトニン5HT1B/1D受容体作動薬のトリプタンが中心である。

    ▶診断のポイント

    片頭痛は,ICHD-3で一次性頭痛に分類されており,日常診療で遭遇する機会が多いのは,「前兆のない片頭痛」と「前兆のある片頭痛」である。

    【前兆のない片頭痛】

    片頭痛の特徴として,①片側性,②拍動性,③中等度以上の頭痛,④動作による頭痛の増悪,の4項目が挙げられ,この中の2項目以上を満たす必要がある。小児あるいは青年(18歳未満)の片頭痛は成人の場合に比べて両側性であることが多い。片側性の頭痛は青年期の終わりか成人期の初めに現れるのが通例である。片頭痛の痛みは通常,前頭側頭部に発生する。小児における後頭部痛は稀であり,診断上の注意が必要である2)

    【前兆のある片頭痛】

    前兆症状は通常5分以上かけて徐々に進展し,前兆発現後60分以内に頭痛が発現するのが特徴である。視覚性前兆は最も一般的なタイプの前兆であり,閃輝暗点として現れる場合が多い。ついで頻度が高いのは感覚障害で,チクチク感として現れ,発生部位から身体および顔面の領域に様々な広がりをもって波及する。さらに頻度は低いが,失語性言語障害が現れる場合もある2)

    【検査所見】

    一次性頭痛と二次性頭痛との鑑別に画像診断(CT,MRI)が重要である。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    片頭痛急性期の治療は,薬物療法が中心である。治療薬として①アセトアミノフェン,②非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs),③エルゴタミン製剤,④トリプタン,⑤制吐薬があり,片頭痛の重症度に応じた層別治療が推奨される。軽度~中等度の頭痛にはアスピリン,ナプロキセンなどのNSAIDsを使用する。次に中等度~重度の頭痛,または軽度~中等度の頭痛でも過去にNSAIDsの効果がなかった場合にはトリプタンが推奨される。また,片頭痛薬剤使用方法(タイミング,使用量,使用頻度),妊娠中や授乳中の薬剤の対応,急性期発作中の患者指導と注意点についての説明が必要である1)

    片頭痛発作が月に2回以上あるいは6日以上ある患者では,予防療法の実施について検討してみることが勧められる。急性期治療のみでは片頭痛発作による日常生活の支障がある場合,急性期治療薬が使用できない場合,永続的な神経障害をきたすおそれのある特殊な片頭痛には,予防療法を行うよう勧められる1)

    【注意】

    妊娠中,授乳中の片頭痛治療(急性期・予防)1)は発作が重度で治療が必要な場合には,発作頓挫薬としてはアセトアミノフェンが勧められる。妊娠期間中のトリプタン使用の安全性は確立されていないが,妊娠初期の使用での胎児奇形発生率の増加は報告されていない。多くの片頭痛患者は妊娠中には片頭痛発作の頻度が減少するため,予防薬が必要となる患者は少ない。また,予防薬は投与しないことが望ましいが,必要な場合にはβ遮断薬が挙げられる。授乳婦がトリプタンを使用した場合には,スマトリプタンは使用後12時間,そのほかのトリプタンは24時間経過した後に授乳させることが望ましい1)

    急性期治療薬の乱用は「薬剤の使用過多による頭痛〔薬物乱用頭痛(medication overuse headache:MOH)〕」2)を誘発するので,急性期治療薬の過剰な使用がある場合も予防療法が必要となる。

    【禁忌】

    妊娠可能年齢の女性片頭痛患者にバルプロ酸を投与する場合には,副作用・催奇形性について説明の上,徐放剤を選択し,ほかの抗てんかん薬を併用しない。妊娠中,および妊娠中の可能性のある女性には原則禁忌とする1)

    片麻痺性片頭痛やmigraine with brainstem aura(脳幹性前兆を伴う片頭痛)ではトリプタンは禁忌である。

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