SUMMARY
プライマリ・ケアでは,医療の質の構成要素の中でも特に患者中心性の重要性が高く,近年その質指標であるPatient Experience(PX)が国際的に注目されている。今後わが国でも,研究と実践の両面でPXの活用を推進する必要がある。
KEYWORD
Patient Experience(PX)
「患者がケア・プロセスの中で経験する事象」と定義され,患者が主体の医療の質指標である。既にその臨床的意義について多くの研究が存在する。わが国ではプライマリ・ケア領域のPX尺度として,JPCATが開発された。
PROFILE
日本医療福祉生活協同組合連合会家庭医療学開発センターで家庭医療の研鑽を積み,現在はアカデミアでプライマリ・ケアの研究に注力している。医学博士,医療政策学修士,家庭医療専門医,社会医学系専門医,臨床疫学認定専門家。
POLICY・座右の銘
吾唯足知
住民にとって医療との最初の接点を担い,様々な職種と連携を取りながら,幅広い健康問題を取り扱うプライマリ・ケアにおいて生じるクリニカルクエスチョンは,臨床現場や医療政策にとって真に切実な課題が多い。プライマリ・ケア研究の実践は,わが国のヘルスケアシステムの質を向上させる上で重要と言える。本稿では,プライマリ・ケア研究の例として,患者経験価値(Patient Experience:PX)に関する研究を紹介する。
従来,医療の質は,有効性(慢性腎臓病患者でのRAS阻害薬処方や糖尿病患者のHbA1cのような,科学的根拠に基づいた医療の提供)を指すことが多かった。しかし現在では,医療の質は有効性だけでなく,安全性,効率性,適時性,公平性,患者中心性などで構成される多元的な概念と広く認識されている1)。このうち,患者中心性は,「患者の意向・ニーズ・価値観を尊重した医療の提供」と定義され,医療の個別化を背景に,近年国際的に注目度が高まっている医療の質の構成要素である。