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急性散在性脳脊髄炎(ADEM)[私の治療]

No.4964 (2019年06月15日発行) P.42

松本勇貴 (東北大学病院神経内科)

藤原一男 (福島県立医科大学多発性硬化症治療学講座教授/総合南東北病院多発性硬化症・視神経脊髄炎センターセンター長)

登録日: 2019-06-13

最終更新日: 2019-07-09

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  • 急性散在性脳脊髄炎(acute disseminated encephalomyelitis:ADEM)とは,脳症を含む多巣性の病変をきたす免疫介在性の脱髄性中枢神経疾患である。5~8歳の小児に好発し,従来は単相性と考えられてきたが,再発も決して稀ではない。ワクチン接種や感染症に引き続いて生じることが多いとされる。近年,抗ミエリンオリゴデンドロサイト糖蛋白質(myelin-oligodendrocyte glycoprotein:MOG)に対する自己抗体との関連が指摘されており,陽性例は陰性例に比して高率に再発するとされている1)

    ▶診断のポイント2)

    急性発症の脳症であり,MRIにて脱髄を示唆する多巣性の中枢神経疾患病変をみた場合に疑う。頭痛や発熱,嘔気・嘔吐が先行することもある。

    画像検査はガドリニウム造影MRI検査を頭部と脊髄でそれぞれ実施する。血液検査では抗MOG抗体(急性期に陽性の場合でもその後に陰転化することもある)のほか,中枢神経血管炎,ミトコンドリア病,サルコイドーシス,シェーグレン症候群,橋本脳症,視神経脊髄炎等を除外するため血算,赤沈,CRP,乳酸,アンジオテンシン変換酵素(angiotensin-converting enzyme:ACE),抗核抗体,抗SS-A抗体,抗SS-B抗体,甲状腺機能,抗サイログロブリン抗体,抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体,抗好中球細胞質抗体(antineutrophil cytoplasmic antibody:ANCA),抗アクアポリン4抗体を提出する。 髄液検査では,細胞数,蛋白,糖,IgG index, オリゴクローナルバンド,ミエリン塩基性蛋白,悪性リンパ腫の除外のため可溶性IL-2R,さらに単純ヘルペスウイルス,エンテロウイルス,EBウイルス,マイコプラズマ等の抗体検査やPCR 検査を行う。

    ADEMにおいては細胞数の増多(単核球有意のことが多い)や蛋白濃度の上昇,糖は正常であることが多い。一部の症例では,オリゴクローナルバンドが陽性(一過性のこともある)やIgG indexが高値となる。ミエリンベーシック蛋白(myelin basic protein:MBP)は高値になることが多い。その他,ミトコンドリア病やクラッベ(Krabbe)病などの代謝性や遺伝性の白質脳症を呈する疾患も鑑別する。

    国際小児多発性硬化症研究グループの多発性硬化症および免疫介在性中枢神経脱髄疾患の2013年版診断基準においては,ADEMの診断には初発に多巣性,臨床的中枢神経イベントを生じ,その原因が炎症性脱髄病変に基づくと推察されるもので,以下の3つの項目を満たすことが必須である。

    ①発熱やてんかん,全身疾患では説明できない脳症
    ②発症から3カ月以上経過した後は新たな臨床症状およびMRI所見がみられない
    ③脳MRIは急性期に異常所見がある

    MRIでは多巣性の辺縁不明瞭で大きな(1~2cm以上)T2高信号病変が大脳白質や深部灰白質(視床や基底核等),脳幹や脊髄にみられ,一部の病変は造影される。大脳白質のT1低信号病変は稀である。抗MOG抗体陽性例では,脊髄病変はしばしば3椎体以上の長大な病変を呈する。

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