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身体能力と転倒リスクを簡便に自己評価できるツールの開発

No.4964 (2019年06月15日発行) P.36

山田茂樹 (洛和会音羽病院正常圧水頭症センター副部長)

山本一夫 (洛和会音羽病院正常圧水頭症センター部長)

石川正恒 (洛和ヴィライリオス/洛和会音羽病院正常圧水頭症センター 所長)

青柳幸彦 (株式会社デジタル・スタンダード)

登録日: 2019-06-14

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  • iPhoneアプリ「SENIOR Quality」を用いてTimed Up-and-Go(TUG)を行い,データを収集し,歩行解析を行った

    TUGの時間(秒数)のほかに,動作中の3次元的な加速度の95%信頼楕円体体積が重要であることを発見した

    TUGの時間と加速度の95%信頼楕円体体積の両者を組み合わせた「iTUGスコア」を新たに確立した

    これらが自動算出される無料アプリ「HacaroシリーズiTUG」を新たにリリースした

    1. 研究背景と目的

    わが国は世界一の超高齢社会であり,高齢化率(総人口に占める65歳以上の人口割合)は1994年の14%から2017年の28%と約2倍に増加しており,人口構造の急激な変化に伴い要介護者の割合も急増し,社会問題となっている。そこで,要介護状態となる前段階で発見し,積極的に予防的に介入することで,要介護者を減らす施策が試みられている。昨今,要介護状態に陥る前段階としてfrailty(フレイルティ:虚弱)やsarcopenia(サルコペニア)という言葉が注目されている。sarcopeniaとは「筋肉量減少に起因した筋力の低下もしくは身体能力の低下」のことであり,frailtyとは上記に加えて,体重減少や疲労感があり,日常生活の活動量が減少している状態,つまり加齢によって衰弱してきた状態を指している。このような状態を評価する方法は数多く報告されているが,高齢者が自ら簡便に行える信頼性の高い客観的評価法は確立していない。

    たとえば,1991年にPodsiadloらが提唱したTimed Up-and-Go(TUG)テストは,椅子に座った状態からスタートの合図で起立し,3mまっすぐに歩き,Uターンして再び3m歩いて戻り,椅子に座るまでの時間(秒数)を計測する。狭い場所でもストップウォッチさえあれば簡単に計測でき,日常生活の基本動作を含んでいるテストで,信頼性,妥当性が証明された客観的評価スケールとして世界中で広く行われている。TUGテストによる転倒リスク予測のカットオフ値として13.5秒との報告が最も多いが,健常高齢者では13.5秒よりも短時間であっても転倒リスクが高いとの報告が相次ぎ,昨今ではTUGの秒数だけでは転倒リスクを十分には予測できないと考えられつつある1)。そこで,計算や動物の名前を言いながら歩行テストを行うdual-task(二重課題)テストや,床反力計・3次元動作解析装置などの機器を用いたテストなどが新たに提唱されている。しかし,二重課題テストでは認知機能低下の影響を強く受け,単純な運動機能の評価スケールとはならない。また,床反力計や3次元動作解析装置などの精密機器を用いると,得られるデータ量は増えるが,評価方法は煩雑であり,100万円以上5000万円前後と高価で,重くて持ち運びに不向きであり,測定の準備に時間を要するなど,汎用性に乏しく普及は難しい。

    そこで,今や国民の多くが持っているスマートフォンに精度の高いジャイロセンサー(傾きや角度,回転の変化を検知するセンサー)と加速度センサーが搭載されていることに着目し,これを用いてTUGの動作解析を行った。さらに,この動作解析の結果に基づいて信頼性と妥当性を兼ね備えたスケールを考案し,誰もが容易に自ら評価できるアプリを新たに開発したので紹介する。

    2. 対象と方法

    中高齢者のための体力測定・管理を簡単に行うことを目的としたiPhoneアプリとして,2016年に株式会社デジタル・スタンダードがリリースした「SENIOR Quality(シニアクオリティー)」は,TUG,15歩単純直線歩行,片足立ち,重心バランス,Functional reachテストなど,運動機能・転倒リスク評価として広く行われている検査を無料で測定できる。

    洛和会音羽病院に入院した患者と洛和ヴィライリオス介護保険施設へリハビリテーションに通う利用者の協力を得て,それぞれの施設でリハビリテーションスタッフが匿名化(ID番号割り付け登録)を行い,従来通りストップウォッチで秒数を手動で計測しながらSENIOR Qualityを実際に用いてTUGを2回ずつ測定した。計測時はiPhoneの画面が正面を向くようにして体幹装着用ベルトに収納して,腹部正中にブレないよう固定した。iPhoneに内蔵されているジャイロセンサーと加速度センサーによってiPhoneを装着した体幹部の動作(角速度)と加速度を測定し,それぞれ3方向に分離して0.01秒ごとのデータを記録し,動作解析を行った。

    まず,角速度のデータを用いてTUGの①起立,②往路3m歩行,③ターン,④復路3m歩行,⑤ターン,⑥着座の6つの動作について,それぞれの時間(秒数)を自動区分した。次に,加速度のデータを用いて,iPhoneの画面に対して前後(進行)方向,上下(垂直)方向,左右(水平)方向の経時的な変化をグラフ化した。単純二足歩行では,まず踏み出し足の方向へと重心を移すために加速する。次に,踏み出しによって前方と上向き,反対足の方向に加速し,重心が頂点に達した後は重力によって下向きに加速して踵が着地する。踵が着地するときは後方と上向きに加速し,次の踏み出しに連動する。このように重心の移動に伴って前後,上下,左右へと周期的な加速が繰り返されるので,前後-上下,上下-左右,前後-左右の加速度グラフの軌跡は周期的な楕円を描く。周期的とはいえバラつきがあるので,この軌跡の95%信頼楕円(等確率楕円)をグラフ上に重ねて描き,楕円の長径,短径,面積,楕円率を計算し,TUGの時間との関係を統計学的に検証した。

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