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透析中止報道に見るメディアの自殺[長尾和宏の町医者で行こう!!(96)]

No.4956 (2019年04月20日発行) P.46

長尾和宏 (長尾クリニック院長)

登録日: 2019-04-17

最終更新日: 2019-04-17

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何が問題なのか

東京都の公立福生病院で昨年8月、44歳の女性が人工透析を中止して亡くなったと毎日新聞は3月7日の一面で報じた。多くのメディアも同様に「あるまじき行為」と大きく報じた。「医師は患者を死に至らしめる選択肢を提示していいのか」と。中には「殺人だ」「医師免許剥奪だ」と煽る報道もあった。今回は、こうした一連の報道に感じたことを述べたい。

報道によれば、担当した外科医(50歳)は3月28日の会見で「透析続行のために必要な手術の準備をしていたが、女性に拒まれ、物理的に透析が不可能になった」と述べたという。患者の意思を尊重したとし「できることは全部やらせてもらったつもりだ」と、問題はなかったとの認識を示した。院長もこの透析中止について倫理委員会を開くべきか事前に担当医から相談を受けた際、日本透析医学会の提言を参照した上で必要ないと判断した、とコメントした。

死亡前日の本人からの透析再開の要請への対応も批難されている。しかし死亡前日の全身状態が不良だったのであれば、透析を再開したくても、もはや透析ができない状態(ポイントオブノーリターン)だったのだろう。

私は当初から本例の何が問題なのか理解できなかった。独断で透析を中止する医師なんているわけない。中止せざるを得ない状況だったに違いない。おそらく多くの医療者もそう感じたはずだ。透析をしたくても本人の強い拒否、高齢、全身状態の悪化、家族の意向などで断念せざるをえない事例が増えている。私自身も在宅で数例の非導入や中止例を経験している。

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