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医事課長通知「医師による異状死体の届出の徹底について」の問題点

No.4950 (2019年03月09日発行) P.24

小田原良治 (日本医療法人協会常務理事)

登録日: 2019-02-26

最終更新日: 2019-02-26

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  • 〔要旨〕本年2月8日、医事課長通知「医師による異状死体の届出の徹底について」が発出された。同通知は、「医師が死体を検案するに当たっては、死体外表面に異常所見を認めない場合であっても、死体が発見されるに至ったいきさつ、死体発見場所、状況等諸般の事情を考慮し、異状を認める場合には、医師法第21条に基づき、所轄警察署へ届け出ること」としている。この通知は不明瞭で問題のある通知である。好意的に読んだとしても舌足らずの不完全通知である。通知は『異状』と『異常』の使い分けが良く分からない。誤解を招かないよう、補足・修正が必要である。

    1 東京地裁八王子支部判決─『異状』と『異常』

    通知は1969年東京地裁八王子支部判決を一部切り取った解釈のようなので、まず本判決に沿って考える。

    本判決には誤りがあるが、医師法第21条についての論旨は明瞭であり、厚労省通知の参考にされている判決と思われる。判決は、まず、①医師が死体を検案して異状があると認めたときの届出規定が医師法第21条であると述べ、②変死者又は変死の疑いのある死体がある時は検察官が検視を行う(刑事訴訟法)─と法律の立て付けを述べている。

    その上で、a「死因」(死亡の原因)についての「異状」の考え方は「病理学的な異状」(死亡診断書対応であろう)であり、b「死体」についての「異状」の考え方は「法医学的異状」(死体検案書対応であろう)と解すべきであるとする。したがって医師法第21条の、医師が死体を検案(外表を検査)し、異状があるとの判断を行う場合は、死体自体の外表面だけから認識できる異状だけでなく、死体が発見されるに至ったいきさつ、死体発見場所、状況、身許、性別等諸般の事情に『異常』を認めた場合は(変死の疑いがあるので、)それを念頭に検案(外表を検査)し判断することとしている。

    また、医師法第21条で医師に警察への届出義務を課しているのは、死体がa病死(自然死)である場合は問題ないが、b死体の発見(死体として発見されること)は、犯罪と結びつく場合があるので、死体が発見されるに至ったいきさつ、死体発見場所、状況、身許、性別等諸般の事情等に『異常』がないかを念頭に置いて検案し『異状』が認められた場合には、所轄警察署に届出をさせ(医師法第21条)、捜査官に死体検視の要否を決定させる(刑事訴訟法)としている。

    この東京地裁八王子支部判決は、変死の疑いのある死体の検案(外表検査)を行う場合は、死体が発見されるに至ったいきさつ、死体発見場所、状況、等の『異常』を念頭に検案した上で、外表に『異状』があると認識した場合の警察への届け出と解される。

    本判決に基づいて、『異状』と『異常』の意味を考えれば、『異状』とは死体の状態のことであり、検案(死体の外表を検査)して外表の状態が『異状』ということである。一方『異常』は、死体が発見されるに至ったいきさつ、死体発見場所、状況、身許、性別等諸般の事情が「常ではない」、『異常』との意味であろう。

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