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せっかく治した患者をなぜ病気にした環境に戻すのか[炉辺閑話]

No.4941 (2019年01月05日発行) P.60

近藤尚己 (東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻健康教育・社会学分野准教授)

登録日: 2019-01-04

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これは、元世界医師会長で、長年健康格差についての国際的な議論を牽引してきたマイケル・マーモット氏が、一昨年出版した書籍『The Health Gap』の冒頭で述べた言葉である。

研修医の頃、退院して自宅に戻ったとたんに調子を崩して、数週間でまた入院してくる糖尿病患者や、不安と孤立感から夜間帯の救急外来の受診を繰り返すといった患者と出会った。マーモット氏の言葉は、こういった体験を通じて私が疑問に感じていたことをズバリ言い当てているような言葉である。その後20年が過ぎようとしているが、状況はどれだけ改善しただろうか。

自らの健康や病気に向き合えず、治療に困難を抱える患者の多くは、日々の生活や社会関係に課題を抱えている。とはいえ、医療機関で対応が完結できないことから「仕方ないこと」として見過ごされてきた現状がある。

現状を変えようという動きもある。主に英国やその関係国で草の根的にSocial Prescribingという活動が進み、英国政府の国民保健サービス(NHS)も支援に乗り出した。日本語にすれば「社会的処方」といったところだろうか。病を診断し薬を処方するように、病の原因、あるいは治療を難しくしている貧困や孤立といった社会的課題に対して、フォーマル・インフォーマルなケアを、言わば「処方」するのである。英国では、かかりつけのgeneral practitioner(GP)が必ずいる。ある患者の社会的課題への対応が必要とGPが「診断」すると、リンクワーカーなどと呼ばれるスタッフにそのことが連絡される。リンクワーカーは患者と面談し、福祉や生活相談などのサービスや地域住民による地域活動などを紹介、その後もフォローアップする、という仕組みである。

国内にももちろん類似の取り組みはある。しかし、その規模は小さく、手順も標準化されていないし、医療機関がそれを実施する義務もインセンティブもない。患者を同じ病気で2度と病院に出戻らせないために、医療機関と地域とが一層手を携えていく必要がある。地域包括ケアや地域共生社会の議論と合わせ、そういった活動を後押しする制度づくりについて議論を深めていきたい。

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