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男性生殖能力の実情[炉辺閑話]

No.4941 (2019年01月05日発行) P.55

辻村 晃 (順天堂大学医学部附属浦安病院泌尿器科教授)

登録日: 2019-01-04

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2053年には人口が1億人を下回ると推測されており、少子化問題は深刻である。国立社会保障・人口問題研究所による調査では、不妊症の検査や治療を受けたことがある(または現在受けている)夫婦は日本で5.5組に1組に及ぶ。不妊症は長らく女性の問題のように受け取られてきた。しかし、最近では不妊症の約半数で男性側に原因因子があることも知られるようになり、男性の生殖能力にも注目が集まっている。

男性不妊症の原因は、造精機能(精子形成)障害、精路通過障害と性機能障害に大別されるが、2015年度の厚生労働省研究班による全国調査では、造精機能障害が80%以上を占めていた。

驚くべきことに、過去数十年にわたり精子数が徐々に減少していることも、海外の多数例における研究成果で明らかとなっている。また、精液所見は加齢とともに悪化することも事実であり、最近の晩婚化の風潮は男性不妊症を引き起こすと懸念される。

私は、これから結婚する、あるいは結婚後これから積極的に挙児を希望する男性の精液検査を、いわゆるブライダルチェックという形で解析してきた。その結果、ブライダルチェックでも、世界保健機関の基準値である精液量1.5mL以上、精子濃度1500万/mL以上、精子運動率40%以上に到達しない男性が、いずれの項目でも約10%ずつ存在していた。さらに、いずれかの項目が基準値に到達していない男性で検討すると、約25%にも及ぶことが明確となった。すなわち、いわゆる妊活を開始する時点で、既に精液所見が悪化している男性がこれほど多く存在するのである。これには晩婚化はもちろん、食事や生活習慣の悪化など、様々な因子が関連しているものと推測される。

男性不妊症に関する正しい知識に基づいた啓発活動を、行政が中心となって行うことが重要である。男性不妊症が一般社会でより身近な問題と位置づけられ、さらには生活習慣の改善や妊活を若い時期から取り組む機運が高まることで、少子化対策につながることを期待したい。

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