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夢について考える[炉辺閑話]

No.4941 (2019年01月05日発行) P.51

谷口充孝 (大阪回生病院睡眠医療センター部長)

登録日: 2019-01-03

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睡眠医学を専門としていると、患者さんからいろいろな悩みを訴えられるが、一般の人が思っているほど睡眠医学ではわかっていないことも多い。夢もそのひとつである。「怖い夢をみる」「夢ばかりみる」など、なぜかこうした夢の訴えは高齢の患者さんに多い。

最初に夢を科学的にとらえようとしたのは、精神分析学を創始したジークムント・フロイトである。フロイトは1900年に『夢解釈』を出版し、夢には深層心理が反映されると考えた。神経学者でもあったフロイトは、いつの日か自分の学説が神経科学として立証されると信じていた。しかし、ようやく夢が科学的にとらえられるようになったのは、フロイトの死後、10年以上経ってからである。1953年にアセリンスキーとクライトマンがレム睡眠を発見し、脳波が覚醒中と同じように活発に活動するこの睡眠中に覚醒させると、鮮明な夢を見ていることが報告された。それから夢の研究が始まり、いくつかの仮説が提唱されたものの、残念ながら現在でも夢のメカニズムや意義などはほとんど解明されていない。

夢の科学的な解明の手がかりのひとつは神経伝達物質であろう。レム睡眠の際には、記憶と関連するアセチルコリンが活性化されるが、不安や情動に関わるノルエピネフリンやセロトニンといった神経活動は消失する。嫌なことがあっても、一晩眠れば少し楽になっていることは多い。これにはレム睡眠がその役割を果たし、その際の神経活動として夢体験が生まれ、情動を伴う記憶が単純な記憶へと変わっていくのではないだろうか。リーマン予想のような数学の難問が、もし、その解答が見つけられたら数学の歴史が一変するように、夢に対する科学的な解答が出れば、睡眠医学が歴史的な変貌を遂げるだけでなく、精神医学や心理学も大きな影響を与えるはずである。

フロイトが夢見た自身の学説の神経科学的な検証は、いつの日か現実のものになるのであろうか?平成という1つの時代の終わりに、そんなことを考える。

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