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大学病院における労務改革について[炉辺閑話]

No.4941 (2019年01月05日発行) P.92

田邉一成 (東京女子医科大学病院病院長)

登録日: 2019-01-06

最終更新日: 2018-12-26

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ここのところ、世間は働き方改革一色ともいえる状況を呈してきている。

内閣府の働き方改革の荒波は大学病院にも押し寄せてきており、多くの大学病院は戸惑うばかりのように見える。私たちが研修医として過ごしたときのように、患者の治療最優先でどんなに重労働でもする、という概念はまったく受け入れられなくなってきており、古いタイプの医師は戸惑うばかりであろう。

しかし、私は、この働き方改革はむしろ大きなチャンスと考えている。既に10年来、私が担当している泌尿器科では効率的に業務を終わらせ、できるだけ早く帰ることを実践してきており、徐々にではあるが実を結びつつあると感じている。これにはいくつかの理由がある。

まずは、臨床業務そのものが著しく減少(軽症化)していることである。私が病棟で仕事をしていた20年、30年前に比べて治療法の進歩による患者管理の改善が顕著である。多くの疾患が入院を必要としなくなり、外来治療で済むようになっている。また、手術などで入院しても、ロボットや腹腔鏡を用いた低侵襲手術が主流となり、以前に比べて格段に患者管理が容易となっていることなどが挙げられる。多くの抗癌剤治療は以前は入院が当然であったが、今はほとんどが外来化学療法であり、入院すら必要ないのである。もっとも、患者の高齢化や電子カルテの導入、医療安全の意識の高まりから事務作業が増えているのも事実である。しかし、これらの事務業務はいずれ近いうちにAIや便利な電子カルテが代行するようになるものと思われる。

また、我々の施設のように女性医師が非常に多い施設では、女性の働き方を大きく改善できるまたとないチャンスと思っている。女性医師の離職を防ぐ最も重要なポイントは「時間」である。きっちりと時間通りに仕事が終わり、お子さんのお迎えにご主人と協力しながらきちんと行けることなども重要なことである。

働き方改革の最も大きな問題が当直であったが、現在我々は各科の当直を廃止し、大きく労務時間を減らすことに成功している。現時点ではまだ宅直を置いているが、これもいずれなくす方向である。日頃のきちんとした患者管理の元であれば、夜間にほとんど問題を起こすことはなくなっている。また、重症患者は原則として、closed typeのICUなどのユニットで管理していることも重要なポイントである。

このように、これまでの常識にとらわれない治療法の改革、患者管理の改善などが働き方改革には非常に重要であると感じている。

一方で大学病院は、研修中の医師が多いことから、病院での臨床業務のほかに研究や専門医取得・更新のための自己研修の占める割合が非常に多いのが特徴である。今後、自己研鑽についての労務管理は政府の方針がでて議論されはじめることとなるが、個人的には自己研鑽のためにはある程度、臨床業務を制限していくことも考慮すべきであると考えている。特に女性医師、女性教育職の育成には、ここのところは大きなポイントとなることであり、様々な工夫が必要となる。知恵の絞りどころである!

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